日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)交渉で、EUが日本のワイン関税を平成31年に撤廃するよう求めていることが16日、分かった。EUは豚肉や乳製品などでも市場開放を迫っており、自動車や自動車部品など工業製品の関税撤廃を求める日本との間で妥協点を見いだせるかが焦点だ。日欧は来週から首席交渉官会合を開始し、7月上旬の大枠合意を目指して大詰めの協議に入る。
EUはEPAを契機に、日本でワインの市場拡大を加速したい考え。その際、念頭に置くのが日本とのEPAに基づき31年に関税が撤廃されるチリのワイン。本場・欧州といえど、撤廃の恩恵が大きい低価格帯では競合するため、チリと同時期の撤廃を求めている。
欧州から高品質なワインが流入すれば国内農家の打撃は大きい。長野県ワイン協会の菊池敬理事長は「主力品種が正面からぶつかる。品質管理など日本産の良さで勝負するしかないが激烈な競争になる」と懸念を漏らす。国内ワイン産地の多くは欧州種ブドウで醸造しており、広大な農園を抱える欧州の農家に比べコスト競争力で開きがある。
農水省幹部は「地域の農業振興にも深刻な影響を与えかねない」と強い危機感を持ち、関税撤廃までの期間延長を求める構えだ。
他の農産品では、政府が国内で許容されるギリギリの線とみる環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の合意水準が交渉の土台だ。
TPPでは、豚肉の差額関税制度を維持し、安い豚肉では1キロ当たり最大482円の関税を50円に引き下げ、高価格帯は4・3%の関税を撤廃する。バターと脱脂粉乳では各国に7万トン(生乳換算)の低関税輸入枠を設けた。こうした品目では、日欧EPAでも同様の措置が取られる見通し。
一方、工業製品の分野では日本が攻勢をかける。最大の“戦果”を見込むEUの自動車関税(10%)では発効6年後の撤廃を目指す。自動車部品の関税(主に3~4%程度)も輸出額で8割前後を即時撤廃する方向で交渉を進めている。
EUのペトリチオーネ首席交渉官は今月13日に来日したが、来週から本格的な交渉に入る。「EU側は成果が出るまで首席を帰国させない構え」(交渉筋)で、厳しい折衝になりそうだ。日欧が農産品と工業製品で取引すれば国内農家から反発が出るのは避けられず、農産品の輸出促進にもつながるバランスのよい協定にできるかが問われる。