日本海に面し、幾つもの入り江と島々が連なる山口県長門市。平安中期、前九年の役で敗れた東北の武将、安倍貞任の一族がこの地に逃げ落ちた。首相、安倍晋三は、その末裔(まつえい)だと伝えられる。
日露戦争の日本海海戦ではロシア兵の遺体が流れ着き、地元の人々は丁重に弔った。露大統領、ウラジーミル・プーチンとの会談の場にこの地を選んだのは、そんな自らのルーツを知ってほしいという思いがあったからだろう。
「山間にある温泉の夜の静寂(しじま)の中でじっくりと交渉したい」。長門市にたつ直前、安倍は羽田空港で記者団にこう語った。
安倍とプーチンの会談は第1次安倍政権を含めて今回で16回目となる。度重なる会談を通じて2人の信頼関係はジワジワと醸成されてきたが、国際情勢のあおりを受け、険悪な状態に陥ったこともあった。
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「安倍には裏切られた。全く信用できない男だ」
平成26(2014)年8月、露チェリャビンスクで開かれた世界柔道選手権の最中、プーチンは、柔道家で五輪金メダリストの山下泰裕に対し、ロシアのクリミア併合を受け、欧米が行った対露経済制裁に日本が同調したことへの怒りをぶちまけた。
これに先立つ同年2月、安倍は露ソチで冬季五輪開会式に出席した。欧米首脳がロシアの人権問題などを理由に相次いで出席を見送る中での訪露だっただけにプーチンは心から喜び、自らの別荘でもてなした。そのわずか1カ月後の経済制裁は、プーチンの目に「裏切り」に映った。