トランプ氏、TPPの経済効果より労働者の不満への対応を優先

動画投稿サイト「ユーチューブ」で、TPPを脱退する意思を表明するトランプ次期米大統領
動画投稿サイト「ユーチューブ」で、TPPを脱退する意思を表明するトランプ次期米大統領【拡大】

 トランプ次期米大統領が就任当日にTPPから離脱すると言明したが、TPPは低成長が常態化しつつある米国経済の後押しに必須の政策のはずだった。トランプ氏は利点よりも、大統領選での勝利を後押しした労働者層の自由貿易体制への不満への対応を優先させた形だ。

 米国際貿易委員会(USITC)は5月、TPPにより米国の実質国内総生産(GDP)が2032年時点で427億ドル(約4兆7000億円)押し上げられると試算。乳製品や食肉などの農産品だけでなく、輸入増が懸念されてきた自動車や衣料品も、生産量が押し上げられるとみていた。

 しかし、トランプ氏が目を向けたのは米国内で渦巻く自由貿易体制への反発だ。米国の労働者の間では1994年の北米自由貿易協定(NAFTA)発効や2001年の中国の世界貿易機関(WTO)加盟が米国からの製造業流出を加速させたとの思いが強い。

 米国では1999年末に1730万人いた製造業の就業者は、2015年末には1230万人まで減少している。トランプ氏にとってオバマ大統領と、今回の大統領選で争ったクリントン氏が構想したTPPは格好の攻撃材料だった。

 ただしトランプ氏は2国間の貿易協定を進めるとも強調し、完全に自由貿易体制に背を向けているわけではない。タフなネゴシエーター(交渉人)を自任するトランプ氏が日米間の自由貿易協定の実現を見据えている可能性もありそうだ。(ワシントン 小雲規生)