□スパイダー・イニシアティブ代表 森辺一樹
アジア新興国では、エスカレーターのスピードが非常に速いことをご存じだろうか。エスカレーターのスピードは、欧米の先進国では日本と同じくらいだが、アジア新興国では特に地下鉄のエスカレーターが日本の3倍にも感じるほどの速さだ。いい大人でも乗り降りするときに気を付けないとつまずいてしまうぐらいである。その「超高速エスカレーター」に現地の人は普通に乗っている。
なぜ、そんなに速いのか。せっかちだから、忙しいから、時間を大切にしているから、といった理由を想像しがちだが、まったくそうではない。また、現地製のエスカレーターだから速い、ということでもない。エスカレーター自体は、日本や外資系のグローバル企業がつくっているものが多く、先進国で使われているものと大差はない。違いは、設定スピードである。
アジア新興国では「これが普通のスピード」という基準が、先進国とはまったく異なる。日本では高齢化が進み、2015年の統計によると日本人の平均年齢は46歳。一方、アジアの平均年齢はぐんと低く、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国は多くが20代。40代と20代では運動神経が違うし、体感速度も全然違う。アジア新興国では大多数である20代に合わせた結果、超高速スピード設定になっているのだ。
また、先進国では、とにかく安全第一。安全が確保されて、はじめてスピードを上げていくという感覚だが、新興国ではまだそのような感覚になっていない。よくテレビ番組などで、バイクにヘルメットなしで3、4人が乗ったり、電車からあふれた人たちが屋根の上に乗ったりというアジア諸国の光景を見るが、あのように安全への配慮が行き届いていないのが彼らの日常なのだ。