世界有数のコメの生産地、ベトナムとタイが、過去数十年で最悪とみられる干魃(かんばつ)に見舞われている。南シナ海に近いベトナム南部メコンデルタでは、川の水位が低下して大量の海水が流れ込み、塩害が発生。稲作や生活を直撃し、深刻な影響が出ている。
メコンデルタの一角にあるベトナム南部ベンチェ省ビンダイ。海から30キロほどの水田地帯で潮の香りがする。田んぼは乾いてひびが入り、表面は小さな塩の結晶がきらきらと光る。枯れて収穫できなくなった稲が所々に放置されていた。
「2月ごろから稲の色が茶色く変わり始め、そのまま実もつかない」と農家のボー・ティ・ディエップさん。約4000平方メートルの水田の稲は塩害で全滅した。過去にも海水の流入はたびたびあったが「数日すると塩水は引いた。今回は1カ月以上残っている。こんなことは初めてだ」。
雨水に頼る飲料水も少雨のため不足。洗濯などの生活用水は、用水路から取った塩混じりの水を消毒して使う。
ベトナムではメコンデルタや中部の高原地帯で、昨年からエルニーニョ現象に伴う高温、少雨が続いた。メコンデルタでは地球温暖化による海水面上昇の影響が海水流入を加速させた。
ベトナム政府によるとメコンデルタでは約16万ヘクタールの水田で干魃、塩害被害が出て、冬~春栽培のコメの生産量は約13万トン減る見込み。約60万人が水不足に直面し、干魃が長期化すれば域内の水田の約3割が耕作不能になる恐れがある。