タイの首都バンコクの首相府脇にオープンした「国立汚職博物館」が話題だ。社会にはびこる「袖の下」の追放には、不正行為をしないという意識を若いうちに植え付けることが重要として、幼稚園児から大学生を中心とする見学者を受け入れている。
タイでは交通違反をしても、現場で警察官に300バーツ(約1000円)ほど渡せば見逃してくれるというのが半ば常識だ。成績を水増ししてもらうために学生の親が教員に付け届けをしたり、行列の前方に割り込むため係員に金を渡したりと「袖の下」への罪悪感は希薄だ。
軍人や政府高官の汚職も枚挙にいとまがなく、博物館には大型汚職の事例がずらり。計約1800平方メートルのスペースを10ゾーンに分けて汚職の歴史などを紹介している。
入り口前の柱には「明日テストがあるのに勉強していない。あなたならどうする?」「大きい会社に入るため、履歴書の経歴を詐称するのは当然?」などの質問が並ぶ。若者に身近な事例で善悪を問い、汚職につながりかねない不正の芽を摘もうという試みだ。
案内役のアーメン・ボウォンスワンさんは「大人には賄賂は当然という固定観念がある。学生のうちから意識変革しないとタイの社会は変わらない」と話す。
博物館には、東北部ウドンタニ県のウドンタニラチャパット大から70人余りの学生が訪れていた。男子学生、ナタクリット・ムンチャナさん(22)は、身の回りに小さな不正行為はいくらでもあると打ち明ける。「金持ちになって、うまく世の中を渡りたいと思っていたけど、少しだけ考えが変わったかな…」とはにかんだ。(バンコク 共同)