防衛省の発注で三菱重工業などが製造する《先進技術実証機》の地上滑走試験を視察した中谷元・防衛相は、実証機が背負う「重み」をよく理解しているようだ。中谷氏は強調した-
「(開発が)順調に進展していることを確認した」
「将来のわが国の戦闘機開発や航空機産業全体の技術革新、他分野への応用に大変期待が持てる」
「重み」を語る前に、敬意を込め、また親しみを込めて、《心神》と愛称(富士山の別称)で呼びたい。さて「重み」について。中谷氏が「順調な進展」に言及した背景には、平成7年の研究開始以来、技術的にほぼ未開の、しかも高度な分野に踏み込み、克服しつつある安堵感が横たわる。何しろ、米軍のF-35といった《第5世代》戦闘機の上をうかがう、将来の《第6世代》戦闘機開発に備えた開発・製造なのだ。30万点もの部品を組み合わせ、国産化率9割超の軍用機を造り上げた技術陣や参加企業220社は誉められてよい。
特徴の第一は、炭素繊維を駆使し、形状を“彫刻”し、敵レーダーに探知されず敵を捕捉するステルス性で、国産成功例は米露中3カ国だけ。繊維▽耐熱素材▽電子機器▽小型燃料装置…、わが国の得意技術を活かした点も特筆される。強い向かい風を受けても失速せず、旋回半径の著しい短縮を可能にしたエンジンの開発も、担当のIHIが成功した。結果、軽量化を図り高い運動性を実現した。