□一橋大学名誉教授・石弘光
昨年の夏頃から、税制改革はもっぱら消費税率の引き上げに伴う軽減税率導入の制度設計に費やされてきた。自民・公明の党税制調査会が表舞台であった。軽減税率を食料品に適用する際の範囲をめぐり、当初の精米品に限定する自民党案から、最後は公明党の見解を丸のみし、酒類・外食を除く食料品までに拡大された。減税財源も400億円から約1兆円にまで増大した。その結果、2017年4月から消費税率が8%から10%に引き上げられる際に、8%の軽減税率の範囲も具体的になった。
1989年度に創設されて以来、消費税は単一税率でやってきたのが、今般の決定により初めて複数税率になる。付加価値税の先発国である欧州諸国をみると、大半の国が複数税率にしているので、日本の消費税もいずれはそうなるものと考えられている。
しかしながら今回の軽減税率の仕組みが決定されるまでの一連の過程をみると、その決定はあまりに軽率であったとの感を禁じ得ない。
◆導入は時期尚早
まず第1に、軽減税率導入ありきの官邸主導の政治過程であった。
この背後には政治公約を盾に公明党のゴネ押しを、安倍晋三首相が選挙協力を重視し、その案を是認し政治的に押し切ったという事情がある。