夏休みにバリ島などインドネシアを旅行し、土産にコーヒーを買った人も多いだろう。有名なトラジャ、マンデリン、バリコーヒーなど、インドネシアでは栽培地ごとに味や香りの異なる多彩なコーヒーが生産されている。なかでも、「幻のコーヒー」が外国人旅行者の間で人気だ。
◆世界4位の生産国
国際コーヒー機関の調べでは、昨年のインドネシアのコーヒー生産量と輸出量は世界第4位だった。日本の財務省によると、日本はブラジル、ベトナム、コロンビアに次いでインドネシアからのコーヒー輸入量が4番目に多い。
世界有数の生産国だけに、地元のインドネシア人も男性を中心に多くの人々がコーヒーを好む。道路沿いに並ぶ屋台でコーヒーを楽しむ姿がよく見られる。これらはインスタントで、小袋に入った1杯分のコーヒーとミルクの粉、砂糖をコップに入れてお湯を注いで飲む。屋台には数種類の小袋が短冊状にぶら下げられ、好みで選んで注文する。1杯25~30円と値段も手頃だ。
一方で、ここ数年は中間層の増加に伴い、レギュラーコーヒーを好む本物志向の人も増えてきた。大通り沿いやショッピングモールにはコーヒー専門店の開店が相次ぐ。南ジャカルタのモール、パサラヤ・ブロックM店に昨年開店した専門店では、屋台と違ってドリップ式のレギュラーコーヒーを提供するとともに、約10種類のインドネシア産コーヒー豆を販売している。
コーヒー豆は250グラムで約1200~1500円と現地の人にとってはなかなかのぜいたく品にもかかわらず、販売量は開店当初に比べ倍に伸び、1日1~2キロを売り上げる。店員は「最近はみな品質の高いコーヒーを求めているようだ」と販売好調の要因を分析する。
◆動物の糞から豆
こうしたなか、希少で高価なため一部の人にしか手が出ず外国人旅行者に人気があるのが、「幻のコーヒー」ともいわれる「コピ・ルアック」だ。
インドネシア語でコピはコーヒー、ルアックはジャコウネコの一種を指す。コーヒーの実を食べたジャコウネコの糞(ふん)から未消化の豆を取り出したもので、ジャコウネコの分泌物が加わり、独特のコクと香りがコーヒー愛好者を引きつける。18世紀のオランダ植民地時代、商品作物であるコーヒーを飲むことを禁じられたコーヒー農場の地元労働者が、偶然、ジャコウネコの糞にある豆をみつけてコーヒーに仕立てて飲んだのが始まりとされている。
ジャワ島中部の古都ジョグジャカルタにあるコーヒー製造・直売店「コピ・ルアック・アリ」では、各地からコーヒー豆を含んだジャコウネコの糞を仕入れ、乾燥、分別の後、焙煎してコピ・ルアックを販売している。100グラムで約4000円とかなりの高級品。それでもオーナーのアリさんは「国内外の観光客が購入し、開店5年間で売り上げは倍に増えているよ」とほほ笑む。1カ月に約50キロが売れるという。
南ジャカルタのモール、ブロックMプラザでコピ・ルアックを扱うカフェではコピ・ルアックコーヒーが1杯約850円。日本で取り扱っている喫茶店でも1杯数千円と破格だ。それでも愛飲する常連客がいるという。希少で高価。アジアで最高のコーヒーと言っても過言ではない。(在インドネシア・フリーライター 横山裕一)