インドで妊娠・出産ビジネスが急拡大している。現地経済紙フィナンシャル・タイムズによると、同国の妊娠・出産にかかわる医療施設などの市場規模は現在40億ドル(約4051億円)だが、今後5年間で80億ドルに急拡大する見込みだ。経済的に成功した若年富裕層の意識の変化などを背景に、出産に特化し、かつ宿泊設備などが充実した高級施設の需要が高まると予想されている。
米調査会社プライスウォーターハウスクーパースのインド法人は、妊娠は病気ではないという認識のもと、総合病院ではなく専門の施設で出産したいと考える若年層が拡大していると分析。同社幹部は「とくに富裕層は割高でも高水準のサービスを求める意識が強い」と述べ、今後も都市部を中心にこの傾向が強まっていくと予想した。
需要の高まりを受けて医療業界も積極的な動きをみせ始めた。同国内で50以上の病院を展開する病院経営大手アポロ・ホスピタル・エンタープライズは、デリー近郊のグルガオンで出産費用8万~11万ルピー(約13万5200~約18万5900円)の高級専門施設「クレイドル」を運営しているが、今後5年間でデリーや西部ムンバイを中心に40カ所に拡大する方針だ。
アポロ幹部は「ビジネスの視点でみると、出産施設は初期の設備投資が通常の病院と比較して大幅に低く、投資回収期間も短い」と述べ、高い医療水準を求めつつ行き届いたサービスを求める層の取り込みを目指すと意欲をのぞかせた。
また、費用6万7000ルピー~25万1000ルピーの「ラ・ファム」をグルガオンで運営している病院経営大手フォーティス・ヘルスケアは、北部ルディアナで100床の新施設を建設中で、南部バンガロールにも進出を予定しているという。
さらに、南部バンガロールとチェンナイで5施設を運営する「クラウドナイン」も昨年の収入が前年のおよそ倍となる7億4640万ルピーと経営は順調で、幹部は年内に西部プネとムンバイに新施設が完成する予定だと明かした。同社はさらに不妊治療を専門とする完全子会社を所有するが、こちらも昨年の収入は前年比87%増の1億9000万ルピーと好調だった。
インドの新生児数は年間2700万人とされ、今後は地方でも所得向上とともに出産ビジネスの拡大が見込まれる。また、現在の市場規模が18億ドルとされる不妊治療分野も今後数年間は年20%の勢いで拡大していく見通しだ。人口12億のうち若年層の割合が高いインドは人口増が当面続くとみられており、妊娠・出産をめぐるビジネスが拡大し競争が激化しそうだ。(ニューデリー支局)