数々のバラエティー番組に出演し、“株主優待生活者”としてすっかりおなじみになったプロ棋士で個人投資家の桐谷広人さん。衣食住のうち“住”以外のほとんどを優待で賄っているというから徹底している。なぜ桐谷さんはそれほど優待にのめり込んだのか? その背景には、バブル景気以降30年にも及ぶ株式投資経験から得た独自の哲学があった。株の楽しさと恐ろしさを知り尽くした桐谷さんの投資人生を振り返りつつ、3月権利駆け込みでまだ間に合う優待“桐谷”銘柄を紹介!
ファッションもすべて優待でコーディネート
「今日着ている服も、靴やバッグ、財布もすべて優待によるもの。自分で買うことはまったくありません」と飄飄(ひょうひょう)と語り始めた桐谷さん。バラエティー番組の“演出”かと思っていたが、正真正銘、うそ偽りなく生活のほとんどを株主優待だけで賄っているようだ。「さすがに家賃は現金で支払っていますが、米や肉、魚などの食料品は優待で送られてきますし、居酒屋やレストランで優待券を使えばタダで飲食できます。もう5年近く、こんな生活をしています」
桐谷さんが優待生活を始めるきっかけとなったのは、2008年のリーマン・ショックだった。2005年の小泉相場で一時は約3億円まで膨らんだ資産が、リーマン後の世界同時株安で6分の1の5000万円弱まで減少した。「信用取引で大きく張りすぎたのが裏目に出ました。そのころ、すでにプロ棋士を辞めて収入が途絶えていたうえに、追い証でどんどん預金がなくなっていったんです。“老後の蓄えがなくなってしまう”と、恐ろしくなりましたね」 それまでにも1990年代のバブル崩壊、2006年のライブドア・ショックと、何度も暴落による恐怖を味わってきた桐谷さんだが、さすがにこれほど資産を大きく減らした経験はなかった。「資産を一気に失うと、絶望的な気分になるものです。“そんな思いは二度としたくない”と思って、信用取引からキッパリと足を洗い、優待生活を始めることにしたんです」
ただでさえ追い証で預金がどんどん減っていたので、なるべく余分なお金はかけず、優待で生活を済ませたいという思いもあったようだ。