もう一つが、経済的に困難な地域だからこそ生まれた技術の「持続性ある社会」での活用、あるいは豊かな地域への「逆流」である。
先進国の大都市においても、かつては簡単にモノを捨てずに再生の術を工夫した。が、「豊かな大量消費社会」の到来は、そうした「古の知恵」を捨て去ってきた。イタリアにおいて生地の再生を顧みなくなった。十和田の裂き織りの需要が低下したのも同じだ。
しかしこれからの時代をサバイバルしていくにあたり、リサイクルの技術は多方面で求められつつある。家電や樹脂の工業製品などはリサイクルのメカニズムがだいぶ整備されてきたが、服については個人単位での古着の再利用やパッチワークなどを別にすると、一般の人の目に見える再生メカニズムはあまり進んでいない。
身近にあるモノのカタチを変えながら使い続ける知恵は世界に沢山ある。これらの技術やノウハウの相違点の指摘でディテールに嵌るのではなく、共通点をバランスよく認識したうえで、各地で共有を図るのが現代の社会を住みよくさせるはずだ。そこで裂き織りが提案する意味は大きく深い。
尚、裂き織りのワークショップは4月に上海で実施する予定で、その後も米国など海外各地から問い合わせが続いている。
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ローカリゼーションマップとは? 異文化市場をモノのローカリゼーションレベルから理解するアプローチ。ビジネス企画を前進させるための異文化の分かり方だ。
安西洋之(あんざい ひろゆき) 上智大学文学部仏文科卒業。日本の自動車メーカーに勤務後、独立。ミラノ在住。ビジネスプランナーとしてデザインから文化論まで全方位で活動。今年は素材ビジネスやローカリゼーションマップのワークショップに注力。著書に『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』 共著に『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか? 世界で売れる商品の異文化対応力』。ローカリゼーションマップのフェイスブックのページ ブログ「さまざまなデザイン」 Twitterは@anzaih