日銀にとってみればまさに薮(やぶ)から棒、とでも言うべきか。消費増税法案をめぐる与野党のせめぎ合いの中から、日銀法の改正案が飛び出す雲行きだ。
現行日銀法は1998年4月に施行された。日銀が80年代後半、ワシントンの意向を受けた大蔵省(現財務省)の圧力に屈して超金融緩和政策を長引かせたために、株や不動産のバブルを膨張させたという反省から、同法は日銀に対し、政治や政府からの高度の独立性を保障した。
ところが、日本はこの98年から物価が継続的になだらかに下がる慢性デフレ病にかかった。2008年9月の「リーマン・ショック」からは悪化し、治る見通しが立たない。「物価安定」を日銀の判断に委ねていては、デフレからいつまでも脱出できないという批判が強く出るようになった。
疑われる「本気度」
改正案の要点は、日銀政策の「目標」と「手段」を明確に分ける。金融政策をどう運営するかは日銀の判断だが、目標については、政府と共有するか、政府や国会の意向に沿うようにする。そして日銀に明確な「インフレ目標」値を持たせ、達成を義務付ける。
日銀は伝統的に「物価上昇率ゼロ%台」をめざし、インフレを極度にまで警戒してきた。2010年秋以降は「同1%程度」を内部での「理解」と説明するようになったが、目標値とするのを拒否してきた。米連邦準備制度理事会(FRB)がこの1月下旬に「インフレゴール(目標)」を打ち出すと、急遽(きゅうきょ)2月14日に「1%の消費者物価上昇率のメド」を決定し、市場を驚かせ、円高に歯止めをかけた。が、その後市場から「本気度」を疑われる始末で、4月後半にはその効力が失(う)せた。