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ASEAN争奪で中国に対抗、日本はコロナで存在感

 日本が東南アジア諸国連合(ASEAN)との関係強化を進めている。ASEANは米国と中国が覇権を争うインド太平洋地域の中心に位置し、欧州も交えた取り込みが熾烈(しれつ)になっている。日本は新型コロナウイルス対策での協力など独自の取り組みで、存在感を発揮しようとしている。

 「ベトナムは(日本の提唱する)『自由で開かれたインド太平洋』を実現する上で要となる重要なパートナーだ。今後も日ベトナム関係を大きく発展させていきたい」

 岸田文雄首相は24日、ファム・ミン・チン首相との会談で、こう強調した。

 ベトナムはASEANの主要国で、南シナ海の海上交通路(シーレーン)に面し、中国と領有権問題を抱える。伝統的に日本との関係は良好で、菅義偉前首相も昨年10月に最初の外遊先としてベトナムを選んだ。

 日本はすでに新型コロナ対策として、ベトナムに400万回分以上のワクチン供与などを行った。9月には防衛装備品・技術移転協定を締結し、外務省は「安全保障分野の協力でギアを上げた」と打ち明ける。

 岸田首相は17日にはフィリピンのドゥテルテ大統領、18日にはインドネシアのジョコ大統領、22日にはタイのプラユット首相、シンガポールのリー・シェンロン首相と立て続けに電話会談を行った。チン氏とは2日に英国で開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の際も会談したばかりだ。

 岸田首相がASEAN首脳との関係構築を急ぐのは中国に対抗するうえで戦略的重要性が高まっているからだ。中国は南シナ海の軍事拠点化を進める一方、コロナワクチンの供与や巨大経済圏構想「一帯一路」で影響力拡大を図る。22日にはASEAN首脳とのオンライン会議も開催した。

 これに対し、米国のバイデン政権もトランプ前政権とは異なり、ASEAN重視を打ち出す。英国も12月の先進7カ国(G7)外相会合にASEAN加盟国を招待すると表明した。

 ASEAN諸国はカンボジアなど中国寄りの国もある一方、「米中対立のもとで『親中』『親米』に分断されることへの警戒感も根強い」(外務省幹部)。日本としては各国の主体性に配慮しつつ、関係を深化させたい考えだ。(田村龍彦)