立ちはだかる医療人材確保の壁 コロナ対策道半ば
政府が12日、新型コロナウイルス感染症対策の全体像をまとめたのは、今夏の第5波で病床が逼迫(ひっぱく)し、自宅療養中に死亡するケースが相次いだことが大きい。ただ、病床を確保できても医師や看護師ら医療人材が確保できなければ「絵に描いた餅」になりかねない。海外ではワクチン接種が進んでも感染が拡大している国がある。第6波到来の際、想定通り対応できるかは見通せない。

「重要なことは最悪の事態を想定し、感染拡大への備えを固めることだ」
岸田文雄首相は12日の新型コロナ対策本部でそう語った。だが、備えを固める作業はまだ道半ばだ。
菅義偉前首相も最悪の事態を想定して対応したが、インド由来のデルタ株の勢いは想定を超え、制御不能な状態に陥った。政府は当時の反省を踏まえ、対策を見直し、感染力が第5波の2倍になっても対応できるように、確保する病床などを数値で示した。
だが、医療人材の確保については数値が示されていない。臨時医療施設を開設する場合の人材供給方法も、地域の医療機関から輪番で派遣するといった事例は書かれているが、都道府県の計画に委ねられている。
厚生労働省の担当者は確保病床数などについて「稼働能力ということで(都道府県に)出してもらった」と現実味が伴う数値であることを強調する。
だが、第5波の際、人材確保が壁として立ちはだかったのは紛れもない事実だ。医療人材には、人工心肺装置「ECMO(エクモ)」などを扱える高度な技術が必要なケースは少なくない。ワクチン接種と異なり、治療の現場は感染リスクが高いため、人材集めが困難という事情もある。
全体像には感染力が3倍になったときは「強い行動制限を求めるとともに、コロナ以外の通常医療の制限の下、緊急的な病床などを確保する」と明記した。だが、ロックダウン(都市封鎖)のあり方をめぐる議論は始まってもいない。通常医療の制限が倫理的に許される範囲についても、国民的合意は得られていない。
入院調整などを行う保健所が逼迫しないようにするための方策も固まっておらず、検査に関しては、感染拡大時は無症状者でも無料で行うとしているが、治療に追われる感染拡大時に検査を充実させる余裕はあるのかという疑問も残る。詰めなければならない課題はなお多い。(坂井広志)