5時から作家塾

貿易を再開させたい北朝鮮、それでも新大橋開通を渋る理由

筑前サンミゲル

 国境封鎖の理由、表面上は失いつつあるが…

 3月からほぼゼロ状態だった中朝貿易が再開したことが確認されている。中国税関総署は、4月の貿易総額を3059万9000ドル(約33億2700万円)と発表。中朝貿易は2020年、前年比80.7%減で2000年と同水準まで落ちていた。

 さらに月別の貿易額で見ると、国境封鎖直後の2月~4月は激減、5月~8月は一気に増加、8月、9月と再び一気に減少、10月以降、今年の2月までは貿易額はほぼゼロだった。

 貿易は再開されたが、それでもコロナ禍の昨年5月の貿易額に達しておらず、本格再開とは言えない状況が続いている。

 中国は新型コロナウイルス感染を抑え込んだと主張し、それを裏付ける統計を発表しているので、これまで感染防止を理由に国境封鎖を維持してきた北朝鮮は理由を失いつつあるが、なぜ本格再開しないのであろうか。

 「原因は北朝鮮にある」

 北朝鮮貿易の7割を占める中国・丹東の貿易関係筋は、「原因は北朝鮮にある」と話す。

 「貿易を本格的に再開させたいのは中朝共通なんですが、(北)朝鮮側は輸入品だけの輸送を求めていて、人員の往来には後ろ向きなんです。物資を運搬するにも最低限の人間は必要だし、しっかりと受け渡しを確認しないといけないので非現実的な話です」

 どうやら関係筋によると、中国は北朝鮮へ物資とともに人的往来再開もセットで求めている。しかし、北朝鮮は、物資は受け取るが、人は遠慮したいという思惑があるようだ。このあたりも影響してか、中国は嫌がらせのように貿易再開を小出しして、北朝鮮側に人的往来も再開させるように圧力をかけていると見られる。

 ここで登場するのが、丹東南部で完成後も正式開通されないままになっている新鴨緑江大橋である。この新大橋は2014年に完成するも13年12月の張成沢粛清の影響で、開通が無期限延期になっている。

 新鴨緑江大橋は全長3030メートル、4車線の自動車専用のつり橋。竣工から78年を迎え老朽化している中朝友誼橋(旧鴨緑江第二橋梁)に代わる中朝貿易の次世代大動脈として中国が大いに期待しているインフラである。

 中国も国境エリアは北朝鮮と一蓮托生

 張成沢粛清後、中朝関係は冷え込んだが、2018年3月習近平・金正恩会談が実現し、中朝関係は改善へ向かったため、中国は1日でも早く新大橋を開通させようと、工事が進んでいなかった北朝鮮側の税関施設や道路も中国負担で建設することで同意。ある意味、北朝鮮側へ妥協して開通を優先させたかっこうとなる。

 その結果、昨年春先、21年夏に正式開通することになり、新大橋周辺のマンション価格は、コロナ禍にもかかわらず上昇。今年も上昇が続いていると地元紙が報じている。もはや中国も国境エリアの街は北朝鮮と一蓮托生状態なのだ。

 中国は、3月9日に橋の強度や安全性を検査する企業を入札公募し、北京の会社が落札して決まったと4月1日に発表。すでに検査作業が始まっている。

 ところが、ここにきて再び北朝鮮は新鴨緑江大橋の正式開通を渋り始める動きを見せている。丹東では、休校していた北朝鮮の学校再開に合わせて4月18日に正式開通するのでは、との噂が流れた。しかし、噂で終わり、現時点でも開通していない。

 懸念される「マイカーの乗り入れ」

 平壌に駐在経験もある中国朝鮮族の実業家は、北朝鮮が新大橋開通に積極的ではない理由として、マイカーの乗り入れを強く警戒しているのではないかと指摘する。

 計画では、新鴨緑江大橋は貿易用のトラックだけじゃなく、一般のマイカーで直接、北朝鮮・新義州への乗り入れることも含まれている。中国人は自分の車でそのまま北朝鮮へ行き、日帰りや1泊観光して、そのまま戻ることを想定しているのだ。移動できるのは新義州限定なのだが、これが懸念になっていると前出の実業家は話す。

 「先行事例として、東北の羅先も中国側からそのままマイカーで乗り入れることができ、中国から見れば人気の観光地となったのですが、平壌では朝鮮側へ悪影響になっていると考える人が少なからずいて、新義州のマイカー乗り入れは止めさせるべきだとの話が出ているようです」

 また新義州には、羅先とは違う事情もあるという。

 「羅先から平壌は820キロメートルほど離れており、道も悪路なので移動は難しいのですが、新義州から平壌は220キロメートルほどと地理的に近く、また道路も比較的に整備されているので、中国側が『新義州と合わせて平壌までマイカー移動解禁』を要求してくることを強く警戒しているようです」(同)

 考えられるXデーは

 北朝鮮は中国人が大挙してやってくることを根強く警戒しており、それが根っことなり新鴨緑江大橋を計画通りの全面開通を渋っている現状が浮かび上がってきた。物資や外貨はほしいが、中国人はいらないということだろう。

 現在、中朝で、マイカー乗り入れの中断や延期など、中国側に何かしらの取り決めを求めて詰めの協議をしている可能性がある。

 それらの調整を経て、考えられるXデーは、今年100周年ということで早くから盛り上げている中国共産党創建記念日である7月1日あたりか。しかし、これだと北朝鮮側の旨味はない。そうすると、北朝鮮の建国記念日である9月9日になるかもしれない。この日は、毛沢東の命日とされる日で、習近平政権にとっても意味ある日となり、中朝双方に旨味はありそうだ。(筑前サンミゲル/5時から作家塾(R)

5時から作家塾(R) 編集ディレクター&ライター集団
1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。

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