NHK、無い袖振れず新たな値下げ見送り 業務スリム化は総務相の意向
NHKが4日発表した次期経営計画案(2021~23年度)は、新たな受信料の値下げ明記は見送りつつも、チャンネル数削減など縮小方針を打ち出した。表明済みの値下げや新型コロナウイルスの影響による新規契約の落ち込みから無い袖は振れない中、スリム化を求める高市早苗総務相の意向をくみ取った形だ。
元銀行員らしく堅実
「できないことを調子良く夢物語のように並べるのは、経営計画とは呼べない」。1月に就任したNHKの前田晃伸会長(元みずほフィナンシャルグループ会長)はある経営委員にそう告げた。
着実に試算した上で実現可能な目標を掲げる。ヘリコプターの効率的運用やジャンルが重複している番組の精査など地道な構造改革により、支出を630億円程度減らす。元銀行員ならではの堅実な発想だ。
2チャンネルあるラジオのAM放送は1つに統合し、衛星放送の4つのチャンネルは段階的に2つに減らす方針だ。
削減ばかりが目立つ計画案にNHK内部では「今度の会長はけちなコストカッター」「これだけ災害が増えている中、ヘリを減らして大丈夫か」など不満もくすぶる。
一方、総務省の担当者は「これまでに比べるとかなり効率化に前向きな内容だ」と計画案に一定の評価を示した。チャンネル削減の実施時期は明記されておらず「計画の決定までの間に具体化が必要だ」と指摘する。
巨大組織NHKのスリム化は、高市氏の思い入れが強い政策テーマだ。地上波、衛星放送、ラジオなど各事業で複数チャンネルを抱え、海外の公共放送と比較しても受信料水準は高い。
「良質で公益性の高い番組作りに資源を集中してもらい、経営コストを大胆に圧縮する」。7月30日、NHKの在り方を検討する総務省の有識者会議で、高市氏は改革の一例として、番組制作の抜本的な見直しも選択肢になるとの考えを示した。今回の計画案は高市氏の意向を色濃く反映した内容と言える。
総務省幹部は高市氏について「NHK改革に熱心だ。結果を残そうという意気込みを感じる」と話す。
高まる不公平感
ただ、今回の計画案はNHK改革の本丸とも言える受信料制度には踏み込んでいない。総務省関係者が「受信料は(インターネット動画配信サービスの)ネットフリックスやアマゾンより高い」と指摘し、NHK関係者は「法律に守られた世界最強のペイTV」と自虐的に語る。
徴収率が約8割にとどまり、徴収にかかるコストは高く、受信料水準の見直しは急務だ。さらにネットでの動画視聴が増え、若い世代を中心にテレビ離れに拍車が掛かっている。NHKは春からテレビ番組の同時配信を始めた。衛星契約を含めると月2230円を支払っている人もいれば、ネット配信画面に受信契約を促すテロップが出るものの、結ばずに番組を見る人もおり、不公平感は高まっている。
総務省の会議ではネット時代に合った受信料の在り方に関する検討が続く。経営計画はパブリックコメント(意見公募)を経て、年度内に策定される。総務省幹部は「この(値下げを盛り込まない)案がすんなり通ってしまえば、受信料水準の見直しなどを要求する後ろ盾がなくなってしまう」と懸念する。NHKの健全運営には引き続き活発な議論が求められる。