多摩地区の交通網整備、依然進まず モノレール延伸決定も「先の話」
【現場から】
「便利にはなるけれど、まだ先の話ですね」
武蔵村山市に住むパートの女性(40)は、多摩モノレールの延伸事業の着手が今年1月に正式決定したことについて、歓迎しつつも複雑な表情を見せた。
都内の区市で唯一、鉄道の駅がない武蔵村山市。延伸されればモノレールの北側の終点、上北台駅(東大和市)からJR八高線箱根ケ崎駅(瑞穂町)までの約7・2キロの区間がつながり、同市を横切るように通る。既存駅の間隔を参考にすると、市内には駅が5つできる計算だ。
女性は「決まって良かったと思う。立川に出やすくなる。中学1年の息子も、これから友達と出かけたり、部活の試合に行ったりすることも多くなるだろうから、駅が近くにできるのは便利」と話す。
ただ、具体的な着工・開業時期は決まっていない。息子が大人になる前にできるかどうかも分からない。
4年前の平成28年7月。JR青梅線河辺(かべ)駅(青梅市)前で、初めての知事選に臨んだ小池百合子氏は、雨の中でこう訴えた。
「多摩地区は面積でいうなら東京の3分の2を占める。しかしそこには多摩格差というものがあって、なかなか十分に都政の目が行き届いていない。私はぜひしっかりとこの多摩格差と向き合って、そしてその是正に努めていくことをこの場でお約束させていただきたいと存じます」-。
小池氏が前回知事選で掲げた公約「7つのゼロ」のうちの一つが「多摩格差ゼロ」だった。
都には古くから「三多摩格差」という言葉があり、昭和50年には「三多摩格差8課題」として義務教育施設、公共下水道の整備などが挙げられたが、都は平成13年の「多摩の将来像2001」で「かなりの部分で解消している」と格差について指摘している。
では現在の「多摩格差」とは何を指すのか。26市長でつくる都市長会の清水庄平会長(立川市長)は、医療体制など複数の問題があるとした上で、とりわけ「多摩地域は交通網の整備が遅れている」と話す。
地下鉄や鉄道が網の目状に張り巡らされている23区部に比べ、多摩地域の鉄道網は薄い。どの交通手段が主に使用されたかを示す「交通分担率」の平成30年の調査では、区部の電車の分担率が51%だったのに対し、多摩では30%。自動車の分担率では、区部が8%なのに対し、多摩では23%と、車に頼らざるを得ない状況が浮かび上がる。
中でも駅がない武蔵村山市では、市役所へ公共交通機関で行くには市内を循環するバス「MMシャトル」を利用するか、立川駅や西武拝島線の東大和市駅などからバスで向かわなければならない。悲願だったモノレール延伸が実現すれば、市内の移動だけでなく都心へのアクセスも向上する。
鉄道網だけではない。道路網でも都心に比べ、多摩地域は充実していない。多摩地域の東西をつなぐ幹線道路は青梅街道や五日市街道などがある半面、南北を結ぶ道路は少ない。多摩北部に南北方向で整備されている都道の立川東大和線や八王子村山線は、JR中央線や中央道以南では整備されていない。
清水氏は多摩の交通網整備について「動き始めていることは確か。でもスピード感がない」と遅々として進まないことを嘆く。
着工は決まったものの、時期が決まらない多摩モノレールもそうだ。冒頭の女性は「完成まで10年はかかるという話もある。今はあまり期待していない」と、ため息をついた。(橘川玲奈)