海外情勢

新型コロナの緊急事態宣言、各国はどう動いているか

 新型コロナウイルスの感染爆発を食い止めようと、世界の主要国は非常事態宣言やロックダウン(都市封鎖)などの手段をとっている。しかし、国民の行動を制限しても感染拡大はとどまる気配をみせない。日本も各国と同じような「見えない敵」との戦いを迫られている。

 外出禁止違反に高額罰金・フランス

 フランスではマクロン大統領が3月16日夜、国民向けのテレビ演説で外出禁止令を発表し、翌日正午から実施された。

 この政令は、(1)仕事で必要(2)生活必需品の買い物(3)自宅付近での運動-などの用件を除いて、外出を禁止した。外出の際は、自己申告の証明書携帯が義務。違反者には最大135ユーロ(約1万6千円)の罰金を科した。大統領は16日の演説で、「われわれは、ウイルスという『見えない敵』と戦争している」と述べ、強硬措置への理解を求めた。

 政府は23日には禁止令の強化を発表した。30日以内に4度違反を重ねると、3750ユーロ(約44万円)の罰金および禁錮刑を科すことになった。仕事上の外出も「テレワークができない場合」「延期ができない場合」に限定。運動は自宅から1キロ以内と、詳細に条件を示した。

 相次ぐ強硬措置は危機意識が薄かった国民への「ショック療法」とみられる。政府は14日に必需品以外の商店閉鎖を発表し、「外出自粛」を呼びかけたが、効果はさっぱり。禁止令施行後も「身近な運動」の名目でセーヌ河畔(かはん))でジョギングする人が絶えなかった。

 一方、外出禁止令の効果は2週間を経てもはっきりしない。1日の発表では、国内の感染者は約5万7千人で増え続けている。

 仏紙フィガロの調査によると、外出禁止令には96%が支持を表明。内務省は、1日までに違反行為は約35万件に上ったとしている。(パリ 三井美奈)

 EU最速の宣言でも防げず・イタリア

 イタリアのコンテ首相は3月9日、翌10日から全国で外出制限を行うと発表した。21日には、食品や物流など、生活必需品を除く生産活動をすべて停止することを決めた。

 イタリアで非常事態が宣言されたのは1月31日。観光でローマを訪れた中国人夫婦に、国内初となる感染が確認された直後のことで、欧州連合(EU)で、最も早かった。非常事態は災害などに際し、政府が州を統合する形で危機対応を可能にするための措置。宣言とあわせて、中国との直行便も差し止められた。

 今回の感染拡大は2月後半、ロンバルディア州で38歳の地元男性による集団感染が発覚したのが発端。男性は中国渡航歴がなく、感染源は謎のまま。感染を食い止めるため、コンテ氏は3月8日、同州などイタリア北部や中部で移動を制限すると発表し、その後は五月雨式の対応が続いた。

 8日の発表後、同州の州都ミラノ駅などに、制限区域から脱出しようとする人が殺到。9日になって移動制限を全国に広げると発表し、外出時は理由を明示する証明書の携帯を求めた。

 この時まで飲食店は、客と店員の距離を1メートル開けることを条件に、午後6時までの日中営業が認められていた。その後、一斉閉店へと改められた。

 3月末には1日当たりの感染死者が900人を突破。1日の発表で727人になったが、増加は続いている。政府は外出制限を4月13日まで続けることを決めた。(パリ 三井美奈)

 3人以上の集会禁止に重点・ドイツ

 ドイツは厳格な外出禁止措置をとらず、公共の空間で3人以上が集うことなどを禁じる「接触制限」に比重を置く。ただ、感染者拡大に歯止めがかからず、自主隔離中のメルケル首相は1日、「効果は若干みられるが、制限を変える段階には程遠い」と、19日までの制限期間延長を発表した。

 制限は買い物など必要な外出を認めた上で(1)同居家族以外との接触を最小限にし、接触時は最低1・5メートルの距離をとる(2)宅配や持ち帰り品の販売を除く飲食店を閉鎖(3)理髪店など身体の接触を避けられないサービス業の禁止-が主な内容。

 基本法(憲法に相当)が定める緊急事態ではなく感染症保護法に基づく措置で、国と実施主体の各州・特別市が一律の指針に合意し、3月22日に始まった。

 外出禁止措置をとるか否かも議論され、南部バイエルン州など一部州は独自に導入した。ただ、独裁体制下の旧東ドイツで育ち、旅行や移動の自由の貴重さを知るメルケル氏が「民主主義体制下では容易でない」と語るなど、私権の制限に慎重論は強く、接触制限前は娯楽施設の閉鎖などにとどまっていた。

 接触制限の違反は少なくはなく、警察が巡回して市民に注意する姿も伝えられる。罰則の有無や程度は州で異なり、導入や強化を図る動きもある。延長によりキリスト教の復活祭に伴う休暇も旅行などができないが、メルケル氏は「パンデミック(世界的大流行)に祝日はない」と国民に協力を呼び掛けた。(宮下日出男)

 外出制限も効果確認されず・英国

 英国政府が3月23日に全土で外出制限を開始してから1週間余りが経過した。目立った感染抑制の効果はまだ出ておらず、国民が平時の生活に戻れるようになるには半年を要するとの見方も出ている。

 ジョンソン首相は23日のテレビ演説で、生活必需品の購入や、1日1回の運動、社会に必要不可欠で自宅ではできない仕事などを除いて外出を禁止する措置を少なくとも3週間実施すると発表。必需品ではない衣料品店や家電用品店といった商店のほか、図書館などの施設も閉鎖させるとした。その後、違反者に警察が罰金を科すことなどを定めた「緊急事態法」も成立した。

 感染症を研究するロンドン衛生熱帯医学大は、外出制限を実施しなければ1人の感染者から2・6人に感染していたが、制限後は0・62人に低下していると推定する。ただ、外出制限を開始してからも国内の感染者数が2万人以上増加しており、現在のところは「感染が抑制された効果は確認されていない」(感染症の英専門家)。英政府首席科学顧問のバランス氏は30日、外出制限の効果が感染者数の減少などという目に見える形で表れるには「2~3週間かかる」と予測した。

 英医療・保健当局のハリーズ副首席医務官は29日、外出制限について、成果が出る兆候があると説明した上で、「(制限が解かれるまでは)約6カ月間かかる可能性がある」とした。(ロンドン 板東和正)

 医療体制危惧し13億人封鎖・インド

 インドでは新型コロナウイルス拡大阻止のため、3月25日から21日間のロックダウン(都市封鎖)に入った。13億人が対象となる大規模な封鎖だ。医療体制が未成熟なことから、一度拡大すると歯止めがかからない懸念があり、モディ政権は神経をとがらせている。

 封鎖下では、食料品店や銀行など生活に必要な店舗以外は閉鎖され、事務所や工場、建設現場も休業となった。食料の買い出しなどを除き外出も禁止。電車や地下鉄など公共交通機関も原則として止まっている。

 モディ首相は「経済的な影響はあるが、人命を救うことが最優先だ」とロックダウンの意義を強調した。経済協力開発機構(OECD)によると、インドの2017年の人口1千人当たりの病床数は0・5で、日本(13・1)やドイツ(8・0)などと比較して、大きく差がある。爆発的感染拡大に耐えられる医療体制は整っていない。

 現在、ロックダウンの最大の影響出ているのは雇用面だ。産業が止まり、大量の労働者が職を失った。人口の約十分の一にあたる1億3600万人に影響が出るという試算もある。

 一方、出稼ぎ労働者が農村部に帰省する動きがでており、ウイルス拡散につながる恐れも指摘される。経済への打撃を覚悟してロックダウンに踏み切ったにもかかわらず、感染封じ込めは見通せないインド。モディ氏は29日、社会の混乱を謝罪しつつ「これしか方法はない」と理解を求めた。(シンガポール 森浩)

 湖北省隔離で感染抑制と自賛・中国

 中国政府は1月下旬、新型コロナウイルスの感染が最初に発生した湖北省武漢市の都市封鎖に踏み切り、厳格な移動制限で同省全体を国土から“隔離”した。この結果、省外の感染者は全体の2割以下で推移し、感染爆発は局所的なものにとどめられたが、当局の初動の遅れや情報公開の透明性に根強い批判がある。

 中国当局は1月23日、武漢市民の市外への移動を禁止し、市内の公共交通機関も停止。封鎖措置は湖北省全体に拡大した。さらに武漢市では1カ月以上、居住区からの外出を全面禁止にするなど社会・経済活動を徹底的に停止した。

 全国の多くの都市が春節(旧正月)の大型連休を延長する形で企業活動や学校を長期間休止した。

 2月上旬に3千人以上で推移していた1日当たりの感染者数は同下旬から激減し、現在は外国で感染したケースを中心に数十件程度。中国政府は「歴史上最も勇敢で柔軟、積極的な措置」(外務省報道官)により、世界のために貴重な時間を稼いだと自賛する。

 ただ政府の専門家チームトップ、鍾南山氏らは、湖北省の封鎖が5日遅ければ感染者は3倍に膨らんだとする一方、5日早ければ「3分の1」まで減少できたとも指摘した。また、封鎖された湖北省には全国から4万人以上の医療従事者が派遣されたが医師や病床、防疫物資などが決定的に不足し、医療崩壊が発生。治療を受けられず自宅で死亡する患者が続出した。(北京 西見由章)