ミャンマー、日本語学校が大盛況 夢は日系企業就職や「特定技能」取得
経済成長の続く東南アジアのミャンマーで、日本語を教える民間の語学学校が相次いで設立されている。中でも最大都市ヤンゴンは狭いエリアに300もの学校がひしめく大激戦区。背後には、進出ラッシュを強める日系企業の動きと、特定技能を持った外国人を対象に昨年4月に日本で運用の始まった改正入管法の存在がある。現地の2つの学校を訪ねた。
在籍生徒数16倍に
「先生の後に続いて、皆さんも一緒に発声してください。私は日本語の勉強をします。はい」
ヤンゴン中心部インヤー湖に近いウー・トゥン・リン・チャン通りは、小さなブティックや雑貨店が密集するミャンマーの「竹下通り」。平日は午後6時以降、土日になると終日、買い物を楽しむ多くの若者たちでにぎわう。2016年1月に開校した「ユニバース・ボケーショナル・スクール」があるのは、そうした通りの入り口に近い雑居ビルの4階。在籍する生徒は250人を数える。
生徒と言っても、職業や年齢はさまざま。大学生、会社員、看護師、会計事務、自営業者…。共通する目標は、給料の高い進出日系企業で働くこと、そして昨年日本で始まった新たな在留資格「特定技能」制度などを活用して日本で働くことだ。このごろは特に後者のニーズが多いと学校では話す。
校長のキンキンさんは北部カチン州の出身。18歳で仕事に就き、働きながら日本語を学んだ。ミャンマーでは働き口が少なく、シンガポールへ出稼ぎに出たことも。悪徳エージェントにだまされ3500ドル(約38万円)を搾取されたその時の辛い思い出は、今も忘れることができない。
その彼女が、少しでもミャンマーの人たちの生活水準を引き上げたいと開校したのが同校だ。15人の生徒で始まった学校も今では第2校舎を構えるまでとなり、在籍生徒数も16倍以上に膨らんだ。丁寧で面倒見が良いという評判が口コミで広がり、入学を希望して面接を受けに来る人は連日後を絶たない。
夫のテーマウンマウンさんは現在、コンピューターのプログラミングを学ぶため日本に留学中。帰国したら学校の履修科目に加える予定だ。ITの知識があって日本語が話せれば、就労先は格段に広がる。「学校名にボケーショナル(職業訓練)という名をわざわざ入れたのもそのため」とキンキンさん。日本とミャンマー双方の送り出し・受け入れ機関の設置にも挑戦したいと話す。
寄宿舎に寝泊まり
バゴー地方域にも近いヤンゴンの北の外れ。中心部から車で1時間の農村にあるのが、福島県出身の佐藤守さん(71)が校長を務める「モビ日本語介護学校」だ。広大な敷地に教室棟2棟、寄宿舎2棟、教職員宿舎1棟などが点在し、生徒約200人と教職員が、月曜日から金曜日までここで寝泊まりしながら日本語を学習している。
校名に「介護」とあるように、卒業後は介護職種技能実習生として日本で実習することを目的に運営されている。17年春に開校し、これまでに内定者も含め約70人の日本行きを実現させた。スマートフォンのテレビ電話機能を使って、教え子と会話するのが佐藤さんの日課だ。生活には困っていないか、日本には慣れたか。都会に出たわが子を案ずる父親の姿が重なった。
ここで教える教師のララさんも同校の卒業生。日本語を教えるほか看護師の資格も持っていることから、介護実習の授業も受け持っている。血圧の測り方、入浴の仕方、車いすの操作方法などを後輩の生徒たちに教える。「生徒たちの夢が少しでもかなうことができれば」と話した。
同校では毎朝8時過ぎから朝礼を行っている。全員でラジオ体操をした後は、佐藤さんが一日の訓示を行い、目標に向けて頑張ろうと拳を上げる。ここでも日本行きを目指す若者たちの表情は真剣そのものだ。そして、その合間に見せる、はにかみながらの日本語のあいさつに優しさと生真面目さを感じた。(在バンコクジャーナリスト・小堀晋一)
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