掘ってみたら…和歌山市の断水騒ぎはなぜ起きた? 全国各地で「起きうる」

 
穴を掘ってみたけれど…=1月19日夜、和歌山市

 漏水していた水道管の修繕工事に伴い、市全体の5分の1を対象とする大規模断水を予定していた和歌山市が20日、断水しなくても修繕が可能なことが判明したとして、急遽断水を中止した。なぜこんな騒ぎが発生したのか。背景にあるのは、水道管の老朽化と、それに対応しきれない自治体の厳しい財政状況。同様の課題は全国各地で抱えている。

 「市民に多大な迷惑をかけ、申し訳ありませんでした」。20日午前、市役所で会見した尾花正啓市長は深々と頭を下げた。

 市によると、8日にJR和歌山駅東側の国道24号の交差点地下にある水道管で漏水が判明。昭和37年に埋設された大量の水を供給する基幹水道管(直径約80センチ)からの漏水が想定され、断水せずに修繕すれば1カ月以上かかる可能性もあるとして、市は16日、市全体の5分の1にあたる約3万5千世帯(約8万人)を対象に19日午後10時から22日午後10時にかけ断水すると発表した。

 実施わずか3日前の発表を受け、市民らは飲料水を買い求めスーパーなどに殺到。飲食店や宿泊施設も相次ぎ休業を決めるなど混乱が広がった。

 ただ、具体的な漏水場所は工事当日まで不明のまま。「掘り起こしてみないと分からない」(担当者)状態で現場の掘削を始めたところ、基幹水道管ではなく、枝分かれした細い管(直径約15センチ)での漏水が判明した。市は断水せずに細い管の修繕を進め、翌20日未明に完了した。

 市によると、市内の水道管の総延長は約1500キロで、大半が昭和30~40年代に施工を終えている。一方、水道管の法定耐用年数は約40年。これを超えた水道管は全体の約17%にあたる約250キロに及んでいるという。

 ただ、市では水道管に水を供給する浄水・配水施設も老朽化しており、予算などの制約上、施設建て替え事業を優先。今年度から当面4カ年の計画で、年約10億円の事業費で水道管の更新を始めたばかりだった。

 混乱を受け、市民からは批判の声が上がった。

 「告知が遅すぎて高齢者に十分な準備ができないことは明白」と憤ったのは断水が予定された連合自治会長の男性(86)。小学4年と3歳の子供がいる主婦(40)も「古い水道管が危ないことは昔から分かっていたはずだ。計画的に更新しなかったのは市の怠慢」と話した。

 市によると、断水の苦情や問い合わせなどの件数は19日現在で約2100件。市は今後、断水する場合の広報のあり方などを検証するとしている。

  水道管の老朽化が引き起こす問題は、和歌山市のみならず各地で浮上している。全国で法定耐用年数の40年を超えた水道管は15%以上を占めており、専門家は「どこでも起きうる問題だ」と警鐘を鳴らしている。

 厚生労働省によると、全国に張り巡らされた水道管約71万キロの多くは昭和50年前後の高度経済成長期までに敷設。当時から更新されていないものも多く、平成29年度時点で16・3%が法定耐用年数を超えている。

 一方で老朽化した水道管の事故は近年相次いでいる。

 水道に詳しいジャーナリストの橋本淳司さんは、水道管が更新されない背景に、自治体の厳しい財政状況があると分析。人口減少で税収が減る上、一人一人の節水に対する意識の高まりから、料金収入も減少傾向にあるという。

 橋本さんは「耐用年数を超えた水道管全てをただちに更新することは難しい。人口減少社会をふまえ、需要の多い水道管を選別した更新計画が必要だ」と指摘する。

 和歌山市では、断水を告知した当初、住民から「断水をやめてほしい」という声が上がる一方、「水道管の老朽化の対策が必要ではないか」と工事を望む意見も出ていた。橋本さんは「それぞれの自治体ごとに水道管に関する情報を開示し、住民らの合意形成を図っていく必要もある」と話している。