「定額制」に反発…使用済み核燃料に独自の課税検討 原発マネー依存といえるか

 
原子力規制委員会の安全審査が続く使用済み核燃料中間貯蔵施設=青森県むつ市(リサイクル燃料貯蔵提供)

 【深層リポート】

 青森県むつ市が、市内の使用済み核燃料中間貯蔵施設に搬入される同燃料への独自の課税を検討している。背景には税収減で厳しさを増す市の財政状況に加え、県が原子力関連施設に課している核燃料物質等取扱税(核燃税)交付金の配分ルールへの不満がある。今年度内に条例案を策定し、課税自主権を行使する構えを取る市に対し、県は現状では静観の構え。県との調整は全く進んでおらず、今後曲折も予想される。

 「定額制」に反発

 核燃税は使途を限定しない法定外普通税で、平成3年に導入した青森県を含め、全国の12道県が条例を定めて同様の課税を行っている。税収は青森では県のほか、むつ市と日本原燃の核燃料サイクル施設がある六ケ所村、東北電力東通原発が立地する東通村、電源開発大間原発の建設工事が進む大間町の下北地域4市町村と、周辺の11市町村に配分されている。

 県は、税収の18%か総額30億円の少ない方を市町村に配分してきたが、今年度から総額30億円の定額に変更した。近年は30億円が配分されており、県は「税収の増減に左右されない安定的な制度運用を図るため」と理由を説明する。これに対し、下北地域4市町村は「30億円定額制」を撤廃し、県の税収が上がれば配分額も増える仕組みに見直すべきと何度も訴えてきたが、両者の議論は平行線をたどったままだ。

 原発が数多く立地する福井県では市町村への配分額は40%で、29年度は核燃税の税収約99億円のうち総額約39億円が交付された。一方、29年度に約200億円の税収があった青森県では市町村の配分割合は約15%にとどまる。

 しかも、下北地域の経済の現状は芳しくない。むつ市によると、地域別にみた市町村内総生産、市町村民所得は22~27年の増減率がいずれも県内の他地域を下回っている。下北地域を牽引(けんいん)する同市でさえ、この6年間で総生産は2・5%減、市民所得も1・1%減と落ち込んでいる。

 宮下宗一郎市長は「県はわれわれの財政状況を分かっているはずなのに主体性を持たず、配分方法の見直し要請をほぼ無視している。県は立地地域から受けている恩恵をリスペクトすべきだ」と不信感を募らせる。

 税収は5年で93億円

 業を煮やした形で、事態打開の一手として浮上したのが使用済み核燃料中間貯蔵施設への課税だ。むつ市は昨年8月に庁内にプロジェクトチームを立ち上げ、令和3年度以降とされる施設の操業開始から5年間で新税の税収を93億7400万円と試算する。

 財政基盤が脆弱(ぜいじゃく)な自治体にとり、原子力施設から得る税収は貴重な財源。宮下市長は「地域が自立に向けて挑戦するための財源であり、原子力が国策であれば(立地自治体が)財源調整を行うのは当然」と、原発マネー依存との批判に真っ向から反論する。

 新税に対し、課税対象の事業者、リサイクル燃料貯蔵(むつ市)は「お答えする段階にない」とし、三村申吾知事も「事業の開始時期を見据え、適切に対応する」と明確な考えを示していない。

 県と立地自治体が原子力施設に二重に課税している事例は佐賀県と玄海町、愛媛県と伊方町などがある。むつ市は厳しい財政状況を受け、宮下市長の父、順一郎氏(故人)が市長だった約10年前に課税を検討したが、東京電力福島第1原発事故などの影響で暗礁に乗り上げた経緯がある。

 「長年の課題だった。税金を無理矢理を払えという話ではない。事業者には地元企業、市民の企業として成長してほしいし、収益が上がれば市も成長する」と、宮下市長は理解を求めている。

 使用済み核燃料中間貯蔵施設 東京電力ホールディングスと日本原子力発電の原発から出た使用済み核燃料を金属容器に入れ、冷却しながら最長50年間貯蔵する施設。建屋は青森県むつ市に平成25年8月完成した。両社が出資して平成17年に設立した会社「リサイクル燃料貯蔵」が運営する。貯蔵後、同燃料は同県六ケ所村の再処理工場などに移す。原子力規制委員会が新規制基準に基づく適合性審査を進めており、同社によると、事業開始見込みは令和3年度。

 【記者の独り言】

 かつて下北半島は“陸の孤島”と呼ばれ、県内の他地域よりも生活基盤の整備が遅れていたが、現在は原発関連施設が相次いで立地し、地域の貴重な産業となっている。

 ただ、原子力規制委員会の審査が長期化し、原発の再稼働や関連事業が遅々として進まず、地域経済や住民生活にも深刻な影を落としているのが現状。規制当局に言いたい。「安全性が確認された原発の早期再稼働こそが国益、地域経済の発展につながる」と。(福田徳行)