韓国苦悩、米中間で板挟み…際立つ平身低頭ぶり

 
5日、ソウルの大統領府で握手する韓国の文在寅大統領(右)と中国の王毅国務委員兼外相(韓国大統領府提供・共同)

 【ソウル=桜井紀雄】韓国を4年ぶりに訪れた中国の王毅国務委員兼外相は、露骨に米国の「一国主義」を批判し、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権に同調を求めた。米国が日米韓の安全保障協力の象徴とみる日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄騒動などで米韓の不協和音が顕在化したタイミングで文政権の取り込みに動いた形だ。

 「あらゆる手段で中国を押さえ込み、発展について悪く言う者もいるが、結局は失敗に終わるだろう」

 王氏は5日、韓国政財界の要人を招いたソウルでの昼食会でこう演説した。トランプ米政権への非難であることは明白だ。韓国については「信頼できる長期的な協力パートナーで、両国は既に利益共同体だ」と強調した。

 康京和(カン・ギョンファ)外相との4日の会談でも米国を念頭に「中国は大きな国が小さな国をいじめることに反対し、自分の力を信じ、他人に強要することに反対する」と述べた。だが、韓国の保守層からは「THAAD(米軍の高高度防衛ミサイル)問題で『3つのノー』を無理強いしたのは中国ではないか」と反発する声が出た。

 韓国は2017年の文大統領訪中前にTHAAD配備への中国の強い反発を受け、THAADの追加配備▽米国のミサイル防衛への参加▽日米韓安保協力の同盟への発展-をしないという「3つのノー」を約束した。事実上の報復といえる韓国への団体旅行の制限などは和らいだものの、芸能人の中国での活動の制限とともに依然続いている。

 韓国外務省当局者は、これらの問題に絡み「両国関係を完全に正常化すべきだとの認識で一致した」と説明したが、王氏は昼食会でも「THAADは中国を狙ったものだ」と主張した。韓国側が王氏の米国批判に反論した形跡はなく、平身低頭ぶりが際立った。

 米ワシントンでは3、4日、在韓米軍の駐留経費をめぐる米韓協議が開かれた。米側は韓国に現行の5倍近い負担増額を迫り、平行線をたどっている。韓国与党からも「米側が要求を押し通すなら、(協議結果の)国会の同意を拒否すべきだ」と米国批判が公然と起きている。文政権はGSOMIAの破棄は踏みとどまったが、米韓間の亀裂は隠しようがない。そうした時期に王氏は訪韓した。

 文政権が中国に頭が上がらないのは、輸出立国の韓国で輸出額全体の25%以上を中国向けが占める経済面での中国依存の高さが背景にある。ただ、米中貿易摩擦のあおりで対中輸出が振るわず、輸出額は11月まで12カ月連続でマイナスを記録した。リスクが明らかでも対中依存構造から抜け出せる段階にはない。

 文大統領は北朝鮮政策も中国の協力抜きには進められないと信じている。韓国紙によると、文大統領の対北・対中政策のブレーンである文正仁(ムン・ジョンイン)統一外交安保特別補佐官は4日の国際会議で「北朝鮮の非核化が行われずに在韓米軍が撤退したら、中国が韓国に核の傘を提供し、北朝鮮と交渉する案はどうだろう」と中国の出席者に問い掛けた。仮定の質問とはいえ、文政権の本音の一端が垣間見える。