【高論卓説】従来の概念を打破する発想力を養成 日本は感性教育にかじを切れ

 
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 先日出版された小野なぎさ著の「あたらしい森林浴」(学芸出版社)には、今後の日本発展の可能性が記されていて興味深い。「森林浴」は、森に接することで人体そのものの健康や精神的な癒やしを得る自然浴と一般的には解釈される。森林浴により、がんなどに対する免疫細胞であるNK細胞(ナチュラル・キラー細胞)の増加や活性が認められるということを、以前このコラムでも紹介した。(吉田就彦)

 その森林活用をビジネスとして展開している小野氏の提案は、従来ある森が大変だから何とかしようという提案に終わっていないことが素晴らしい。ビジネスに森を活用することこそが、これからの日本に大きな優位性を呼び起こすとしている。

 その最もユニークな視点は、現代人が忘れてしまった「感性」を取り戻すという森の活用方法だ。「感覚と感情から導き出された個性」と定義された感性を森と触れることで思い出し、気付き、育み、育てることを提案している。それは、森の中での新事業立案に向けてのアイデア出しや管理職研修でのマネジメント業務への気付き、リーダーシップ開発の実践の場という具合に生かされる。

 昨今、企業が大きな壁にぶつかっていることに、商品やサービスのコモディティー(日用品)化がある。情報化社会の中で、ライバル企業との切磋琢磨(せっさたくま)の結果、他社と違うユニークな成功事例を続けていくことが難しい。優れたものはすぐ他社にまねされてしまい、なかなか優位性を担保することができないという。これまでの延長線では、商品開発にしても、サービス開発にしてもヒット商品が生まれづらいのが現状である。

 そんな中で最近注目されていることにアート志向がある。アート的な発想力やビジョン力によって、これまでの概念を打破してユニークなビジネスを展開していこうという動きだ。これはまさに人の感性を磨くことから始まると言っていい。

 大人のビジネスパーソンが感性を磨くためには、前述した森林浴やアートを実際に使ったEGAKUプログラムなどが有効と思われるが、もっとも重要なのは、そのような資質を本来持って生まれてきたはずの子供たちへの教育の在り方だ。

 感性の豊かさ、それを育む教育の在り方が必要な時代となってきている。「感性教育」をわが日本は急がなければならない。そのためには、美術、音楽、体育、図工などの感性を育む教育の充実が必要だ。

 聞こえてくる現在の教育改革にはそれらの重要性を訴えるものはない。無償化の議論ばかりで、肝心の教育の中身の議論がないように感じる。これからの日本は、単に真面目に一生懸命働く優秀な人材の輩出だけでは乗り切れない。AI(人工知能)の時代になればなおさらだ。本来ならば日本人が得意であった、工夫して、さまざまなモノを組み合わせて新しい価値を創ることができる感性豊かな人材を生み出すことが必要なのだ。そうでなければアート志向をビジネスに取り込むことは不可能である。

 上司の言うことを聞くただの優秀な人間だけが育ってしまう教育では国際競争力を担保できない。今こそ日本は、教育の抜本的な改革を行い、感性教育にかじを切らなければならない。

【プロフィル】吉田就彦

 よしだ・なりひこ ヒットコンテンツ研究所社長。1979年ポニーキャニオン入社。音楽、映像などの制作、宣伝業務に20年間従事する。同社での最後の仕事は、国民的大ヒットとなった「だんご3兄弟」。退職後、ネットベンチャーの経営を経て、現在はデジタル事業戦略コンサルティングを行っている傍ら、ASEANにHEROビジネスを展開中。富山県出身。