専欄

「中国の民主」と「西側の民主」、その違い

 中国は今日、建国70年を迎えた。中国のメディアはこの数カ月間、第2の経済大国に成長した中国の「奇跡」を誇り、共産党の指導をたたえてきた。(元滋賀県立大学教授・荒井利明)

 共産党機関誌「求是」のサイトもこの間、学者、研究者らによる70年を記念する文章をほぼ連日掲載した。その中のいくつかは中国の民主について論ずる内容だった。

 中国人民大学教授の秦宣は、「民主は全人類の共通の価値だが、世界にまったく同じ政治制度は存在せず、全ての国に適用できる政治制度のモデルも存在しない。国情に合致した民主政治の道を歩まねばならない」と述べた上で、「民主を実現する形式は多様である。協商民主は中国の特色ある社会主義民主の独特で独自な民主形式」と強調している。協商とは、話し合うという意味である。

 中国社会科学院政治学研究所研究員の房寧は、民主を西側の選挙民主と中国の協商民主に分け、両者の違いについて、レストランでの食事を例に、西側の民主では客はコックを指名するが、料理はコックまかせで、中国の民主では客はどんな料理を食べるかをコックと相談できると説明している。

 また、復旦大学教授の周文は、2008年の世界金融危機以降、西側資本主義の経済制度や発展モデル、民主政治制度を疑問視して、「中国の構想」や「中国の知恵」に期待する動きが国際社会で広がっていると述べている。

 これらの文章からは、中国の民主に対する自信、さらには優越意識、そして、西側の民主への懐疑的姿勢がうかがわれる。

 むろん、中国にも選挙はあり、中国の民主政治の特徴は協商民主と選挙民主の相互補完にある、というのが公式見解である。また、少なくとも胡錦濤時代までは、選挙民主を充実させる姿勢もみられた。

 03年に米国のハーバード大学で講演した温家宝(当時、首相)は、国や省(自治区、直轄市)レベルの指導者を間接選挙で選んでいることについて、経済上の大きな格差や国民の教育水準の低さなどを挙げて、直接選挙を実施する条件がまだ成熟していないと述べている。この温家宝発言は、中国がいずれは直接選挙を実施することを示唆したものと好意的に受け止められた。

 だが、中国の制度や理論などへの自信を唱え、協商民主の長所を強調する習近平は、温家宝とは異なる見解を持っていると思われる。(敬称略)