【論風】LNG輸入開始から50年 市場発展に向け建設的議論を
1969年、米アラスカ州産液化天然ガス(LNG)を積んだタンカーが入港、日本のLNG輸入が始まった。今年は日本のLNG輸入50周年の記念すべき年である。(日本エネルギー経済研究所常務理事・小山堅)
LNGはクリーンエネルギーとして、当時の重大問題、大都市・工業地帯などでの大気汚染問題への切り札として導入された。その後70年代の石油危機を経て、LNGは石油依存度と中東依存度低下のため、エネルギー安全保障策として導入が加速された。
90年代には気候変動が重要課題になり、化石燃料の中で最も二酸化炭素(CO2)の少ない天然ガス・LNGの利用に拍車が掛かった。
東日本大震災で需要拡大
2011年の東日本大震災後、全停止した原子力発電を補ってLNG火力発電が大幅拡大、日本のLNGは急増した。その後、原子力再稼働などで輸入は減少したが、18年度、日本は8000万トン超のLNGを輸入、世界の3割弱を占める最大のLNG輸入国である。
日本で拡大が続いたLNGは、世界でも利用拡大が進んだ。特に、日本と類似のエネルギー需給構造を持つ韓国や台湾で利用が進み、一時期、日韓台で世界市場の過半を占める時期もあった。その後、中国やインドで利用が拡大、その後東南アジア、南アジアなどの新興市場でもLNG利用が進んだ。アジア以外では、欧州が重要な輸入地域であり、最近は中東や南米などのアジア以外の新興市場が成長している。
供給サイドでは、インドネシア、マレーシア、ブルネイなど東南アジア諸国が重要な供給国だが、そこに豪州やカタールなど中東が加わり、徐々に供給多様化が進んだ。カタールが長く世界トップのLNG供給国の地位を保ってきたが、最近は豪州と米国が輸出を拡大、そこにロシアが加わり、今やトップ争いは4つ巴状況となっている。その他、カナダやモザンビークなど新興輸出国も現れ、供給拡大が進んだ。
まさに、この50年は日本、世界ともにLNG市場拡大の歴史であった。世界の天然ガス貿易という観点で、かつてLNGは貿易全体ではマイナーで、パイプライン貿易が圧倒的だった。しかし、LNG貿易拡大で、現在、貿易の3割を超え、今後の拡大によって、2030年頃にはLNGがパイプライン貿易を上回る、との見方も出ている。
さらに、かつてLNGはその巨大な初期投資を回収するため、売り手と買い手の間で長期契約を結び、固定的・安定的な関係を構築、価格決定方式としては原油価格連動方式が中心となった。しかし、時間の経過とともに新たな価格方式や柔軟な契約条件が追求され、短期・スポット取引の増加で今では全取引の3割強を占めるに至った。
求められる適正価格
今後も、LNGが重要な役割を果たし、世界全体でさらに市場の拡大が期待されている。そのため、石炭、再エネ、原子力、LPガスなどとの市場競争に備える必要がある。また、市場成長が期待される新興市場は相対的に所得水準が低く、輸入・購買の支払い能力にも一定の限界がある。要するにLNG価格の競争力や「手頃さ」が大きな課題となる。しかし価格が安ければ消費側は好都合だが、需要を満たす供給拡大投資が進まない恐れもある。
消費・供給の双方にとって合理的な価格が望ましく、その下で市場が健全に発展・成長することが望まれる。また市場でのさまざまな不確実性に対応するため、LNG市場が柔軟性を高めていくことも重要である。そして、LNGの価値をより適切に反映する価格決定方式の模索も続くことになろう。
長期課題として、気候変動対策強化の中で、LNGがどのような役割を果たすのか、も重要な検討課題となる。
これらは今後のLNG市場発展のため、関係者全てが取り組むべき問題である。本年9月末、世界から閣僚や企業トップが参集し第8回「LNG産消会議」が東京で開催される。市場発展に向けた建設的な議論を期待したい。
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【プロフィル】小山堅
こやま・けん 早大大学院修了。1986年日本エネルギー経済研究所入所。2011年から現職。英ダンディ大学留学、01年博士号取得。専門は国際石油・エネルギー情勢分析など。60歳。長野県出身。
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