【ソウルから 倭人の眼】GSOMIA破棄の韓国、「快く手を取る」と言いつつ逆襲連発
韓国が日本政府による輸出管理厳格化などに対し、日本からの輸入食品への放射線検査強化に続き、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を“対抗カード”として繰り出した。日本統治からの解放を記念する「光復節」(8月15日)の式典で、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「日本が対話と協力の道に乗り出せば、われわれは快く手を取る」と言ったばかり。にもかかわらず、日本と手をつなぐどころか、神経を逆なでし続けている。(ソウル 名村隆寛)
危機感から対日批判抑制
文在寅大統領は光復節の式典演説で、歴史問題での対日批判を抑制した。それ以前の会議などで、さんざん日本を批判していたこともあり、その意図が憶測を呼んだが、日本に輸出管理厳格化の撤回を求める対話を優先させたに過ぎない。
韓国にとって現在、最大の問題は日本による半導体素材の輸出管理厳格化といわゆる「ホワイト国」からの韓国除外だ。この対日懸案にからむニュースは韓国で、2カ月近く連日のように報じられている。
日本の措置に対し日本製品の不買運動や安倍政権批判の抗議集会が続くなど、韓国社会に反発が高まる中で、あえて抑制した文氏の演説からは、韓国大統領としての相当な危機感も伝わってきた。文氏の前に演台に立った男性の演説は、まさに日本への罵詈(ばり)雑言の連発で、極めて対照的だった。
しかし、文氏が対話を呼び掛け、しかも、その演説内容も事前に伝えていたのに、日本政府が無反応だったことが韓国側の態度を変えたという。「国家的自尊心まで毀損(きそん)するほどの無視で一貫し、外交的欠礼を犯した」(韓国大統領府国家安保室の金鉉宗=キム・ヒョンジョン=第2次長)と鼻息は荒い。
韓国の政府内やメディアでは、GSOMIAまでもが破棄されるはずはないとの見方が多かった。韓国政府の一転した逆襲からは、文政権の怒りの様子がうかがえる。
不買運動の代償
韓国ではこの1カ月半ほど、日本製品の不買運動が続いている。その影響を受け、韓国メディアに連日取り上げられたのが、ユニクロであり、日本産のビールだ。
日本のビールは販売されてはいるものの、コンビニやスーパーでの「500ミリリットル缶4本で1万ウォン(約900円)」のお買い得商品の対象からは、日本のビールだけが外されている。日本人観光客が訪れるソウル中心部では“不発”に終わったが、各地方に行けば「日本ボイコット」の横断幕が街中のあちこちに掲げられている。
反日市民団体は「行け行け! ドンドン!」といった勢いだった。しかし、ここに来て日本ボイコットによる悪影響が韓国経済にも出てきている。一例が、日本旅行ボイコットによる航空会社の日本路線の運航休止や減便だ。20日には大韓航空が日韓路線の大幅見直しを発表した。「需要減少」がその理由で、同社は今年6月に就航を始めたばかりの仁川-旭川(週5往復運航)の運航を一時的に取りやめる方針という。
アシアナ航空や格安航空会社(LCC)など韓国の航空会社8社も、九州各地や静岡、富山、米子をはじめとした地方への路線の運休や削減を決定している。日本がらみでもうけていた韓国企業は、自国で起きた日本ボイコット運動によって経営に影響が出ているのだ。
また、不買運動によるユニクロの店舗閉鎖や従業員の休暇のニュースも報じられている。韓国では若者の就職難が社会問題化して久しい。外国企業の規模縮小や撤退は、数の上では微少であろうが、韓国の雇用にはマイナスだろう。
不買に従わざるを得ず
韓国経済の現状を肌で感じている財界の懸念をよそに、反日市民団体は喜々として不買運動を訴えている。それを称賛するかのように、韓国メディアには「日本が大打撃を受けている」などと報じる社もあった。
韓国での不買運動に日本全土がそれほどの衝撃を受けているとは思えないのだが、少なくとも韓国で不買運動に賛同する者は、そのように信じているか、信じていたいようで、「日本が慌てふためき、困っている」と満足そうに振る舞っている。
気の毒なのは、本心では日本製品が欲しく、旅行で日本に行きたい人々などだ。一般国民の多くは「愛国」やら「抗日」を前面に出されれば、世間体を気にして黙って従うしかない。韓国社会は今、そんな雰囲気や状況が続いている。
日本に対し身構え続けている韓国の政府や市民団体、そしてメディア。最近、興味深い報道をニュース番組で目にした。輸出管理の厳格化対象である半導体材料のうち2品目が8月、2回輸出許可となった。このことが韓国では、意外なこととして受け止められていた。
テレビのニュースは「許可した日本の意図は?」と深読みしていたが、そもそも日本政府は輸出を禁じているのではない。あくまでも厳格化であり、問題がなければ許可は出る。当然のことにもかかわらず、韓国側は過敏に反応している。
放射能カードの悪用
文在寅大統領によると日本と手を取るはずの韓国が、ここに来て嫌な対日カードを切り続けている。東京電力福島第1原発事故による放射能の問題だ。
韓国政府は長らく福島など8県産の農水産物の輸入を禁止しており、その他の日本産食品には放射性物質の精密検査をしている。今月には、日本からの石炭灰や廃プラスチックなどリサイクル用廃棄物を輸入する際の検査強化に続き、日本産の一部の加工食品や農産物計17品目に対する検査について、サンプル量と検査回数を2倍に強化することを発表した。
韓国外務省の権世重(クォン・セジュン)気候環境科学外交局長は19日、日本大使館の西永知史公使を呼び、福島第1原発の処理水に関し、海洋放出計画の有無などについて確認を求めた。「放射能汚染水処理の結果が両国民の健康と安全、さらに海でつながる国全体に与える影響を非常に重く認識している」(権氏)との言い分だ。
福島第1原発に関連し、日本はこれまで韓国で“嫌がらせ”としかいえない措置を受け続けてきた。福島県がかかわる行事への反発や妨害がその象徴的なものだ。
日本人としては気分が悪いが、韓国では「福島原発を持ち出せば日本は何も言えない」といった雰囲気がどこかにある。東日本大震災の発生当時「日本沈没」との大見出しを1面トップに踊らせた新聞が複数あった韓国。今も「日本が困るのがうれしくて仕方がない」といった風潮が社会にあることは否めない。
日本に対し放射能カードを切り、「どうだ!」と言わんばかりだが、ただ単に日本国民を不愉快にさせ、韓国への不信感を高めているだけに過ぎない。加えてのGSOMIA破棄だ。大統領が条件付きながらも明言した「日本と手を取る」という言葉は、韓国が連続して悪用したカードで一気に冷めてしまった。
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