中国・高考カンニングで7年の実刑に 若者たちの心を確実にむしばむ勉強地獄
毎年6月7、8日に行われる中国の大学入試「高考」は、世界でも最も苛酷な競争といわれている。今年は受験者数1000万人を超え、最多記録更新なのだそうだ(2019年5月現在)。生まれたときから格差に苦しむ中国人にとり、高考は運命を変えることができる唯一無二のツールである。たった2日で決まってしまう人生一発勝負は、絶対に負けられない闘いであり、この日のために、物心つかないうちから、勉強漬けの生活を送ってきたのだ。(ノンフィクション作家・青樹明子)
競争が激烈になると、どうしても生じるのが不正行為である。政府は不正行為に厳しい姿勢を示し、罰則も15年に新たな法律が規定された。合格取り消しなど簡単なものから、3年の受験資格剥奪、最高7年の実刑と定められた。そればかりではない。不正を行えばブラックリストに載せられ、就職をはじめ未来永劫(えいごう)の悪影響を免れない。
しかし不正はなくならない。それどころか、年々組織化され、方法もハイテク化している。試験当日になると、会場近くのエリアでは、通信環境が遮断されるほどである。
不正がなくならないのは、試験そのものが不公平だという不満があるからだ。出生地によって合格ラインに差が生じるし、試験問題ですら地域によって難易度が違う。その差は「ハッピー式」「悪夢式」「地獄式」と名付けられ、地獄エリアからハッピーエリアへ引っ越しするケースも続出している。
地獄式の上位にランクインしているのが江蘇省である。昨年も高考終了直後から、受験生の悲鳴が上がった。「英語の問題は、1.6メートルもあった。まるで『清明上河図(北宋の都開封を描いた絵巻。長さが528センチある)』みたいだ!」「英文解釈の最終問題は6問もあった。江蘇省の受験生は、みんな勇敢なる兵士だ!」
高考史上最大規模といわれるカンニングがある。1997年に広西チワン族自治区で起きたもので、1600人分の答案のうち500以上に、不正の痕跡が見られたのである。受験生の3分の1が、カンニングをしたことになる。試験会場からは、無数のカンニングペーパーが発見され、調査の結果、高校の先生はじめ、試験会場の監督官ですら、この集団カンニングに関わったという。
事件が起きた背景には、合格率アップという県をあげての圧力がある。目標値を高く設定され、達成できなければ、高校側は責任を負わなければならない。有名大学への合格率は、そっくりそのまま学校に対する評価で、教え子の合否は先生の実績となり、収入にも響いてくる。学校、先生、受験生、それぞれが、人生を賭して行った集団カンニングだった。高考ではまた、毎年自殺者も出る。極端な学歴社会が作り上げる勉強地獄は、若者たちの心を確実にむしばんでいるのである。