インド、拝火教徒「鳥葬」に変化の波 猛禽類減少で処理追いつかず
インド西部ムンバイに住むゾロアスター教(拝火教)の信者が伝統的に行っている「鳥葬」の風習が、時代とともに変化を迫られている。遺体を食べるハゲワシなどの猛禽(もうきん)類が減少して処理が追いつかず、鳥葬を選ばないケースも増えており、信者の間で議論が続いている。
ムンバイの高級住宅街マラバールヒルの一角に「沈黙の塔」と呼ばれる鳥葬の施設がある。深い森に囲まれ、インドで「パールシー」と呼ばれる拝火教徒以外は、立ち入り厳禁だ。死亡した信者の遺体は塔の内部に運ばれ、石の床に寝かされる。遺体は上空から舞い降りてくる鳥たちによってついばまれ、骨となる。
マラバールヒルに住む拝火教研究家、コジェステ・ミストリーさんは「信者にとって火は神聖なもので、遺体を焼くことに用いてはならない。土葬も大地を汚すことになる」と説明する。自らも信者のミストリーさんは「鳥葬は環境を保護しながら遺体を自然に返すことができる方法だ」と強調した。
だが、同じ信者でもダン・バリアさんは鳥葬に懐疑的だ。「家畜に与えていた薬の影響で(その死骸を食べる)ハゲワシが激減し、今はほとんど見かけない。遺体はそのまま放置されて腐敗し、見るも無残な状況になる」と話す。太陽熱を利用して遺体の分解を促進する方法もとられたが、雨期などは十分に機能せず、地区の住民からは異臭に対する苦情も出ているという。
このため信者の中には電気式の火葬場を選ぶ人も出てきており、全体の2~3割に上っているとされる。50代の男性信者は「親族も自分も、遺体が粗末な扱いを受けるのは耐えられない。火葬を認めるべきだ」と話す。
電気式の火葬でも「教えに反する」と反発する司祭もおり、対応は定まっていない。伝統を重んじるミストリーさんは「火葬を選ぶのは教義を理解していないからだ」と、不快感をあらわにした。(ムンバイ 共同)