【道標】「戦後最長」に警戒サイン 政府の景気判断、勇み足の可能性も

 

 アベノミクスとともに始まった2012年12月からの景気拡大は、19年1月まで続くと74カ月となり戦後最長となる。政府は早々と19年1月の月例経済報告閣僚会議に提出した参考資料の中で、「今回の景気回復期間は、今月で74カ月となり、戦後最長となった可能性」があるとしている。

 ところがこの記録達成が怪しくなってきた。景気が既に後退局面入りしている可能性が出てきたからである。この点を私が重視している各種判断材料で点検してみよう。

 私が最も注目しているのは、内閣府経済社会総合研究所が毎月発表している景気動向指数の判断文である。生産、雇用、企業収益などを統合する同指数がどのような動きをしたかによって、判断文の内容が自動的に決まり、ルールも公表されている。機械的に出され、経済情勢の変化に敏感に反応する。

 判断文は18年8月までは「改善」だったが、9月以降は再度「足踏み」となり、19年1月は「景気の下方への局面変化を示す」となった。これは2月も同じだ。景気の山が、数カ月前にあった可能性が高いことを示しており、かなり警戒すべきサインだ。

 次に注目するのは、日本経済研究センターが毎月出している「ESPフォーキャスト調査」である。これは、毎月約40人の民間エコノミストに景気の先行きをアンケートし、その平均値を公表する。この中に「12年11月の景気転換点(谷)の次の景気転換点(山)はもう過ぎたと思うか」との質問が入っている。

 「イエス」と答えたエコノミストは、現時点で既に景気は山を過ぎた、すなわち後退局面入りと判断していることになる。その数は、19年2月の調査まではゼロだったが、3月には5人(回答数は37人)、4月は4人(同35人)となった。

 民間エコノミストにも、まだ少数ではあるが後退派が現れ始めたのだ。

 月例経済報告で明らかになる政府の判断も重要だ。ただし、政府判断は楽観的な方向にバイアスがあると言われ、注意が必要だ。19年2月までは「景気は緩やかに回復している」だったが、3月には「景気は、このところ輸出や生産の一部に弱さもみられるが、緩やかに回復している」という表現に変わった。緩やかに回復という基調判断は変えないものの、若干下方修正したことになる。

 なお前述のように、政府は今回の景気回復について、戦後最長となった可能性を指摘した。「アベノミクスで長期にわたって景気の拡大が続いている」とアピールしたかったのだろう。判断が正しかったかどうかは、今後検証されることになる。場合によっては政府の勇み足ということになる可能性がある。

 こうした景気議論に決着をつけるのは、内閣府経済社会総合研究所が設けている民間有識者からなる景気動向指数研究会なのだが、ある程度の期間のデータがそろう必要があるのでまだ1年程度は時間がかかる。

 今後、米中貿易紛争の影響や中国経済の失速などによって世界経済の低迷が続くと日本の輸出が冷え込んで景気の足を引っ張り、場合によっては18年の10~11月頃が景気の山だったということになる。その確率は結構高い。先行き数カ月は、ここで述べた各種判断の推移から目が離せない。

【プロフィル】小峰隆夫

 こみね・たかお 大正大教授。1947年生まれ、埼玉県出身。東大卒。経済企画庁(現内閣府)調査局長などを経て2017年4月から現職。著書は「平成の経済」など。