【経済講座】電力自由化から3年、「安定供給」の課題浮き彫りに

 
昨年12月の東京ガスの新CM発表会。同社は電力の小売りで攻勢に出ている(同社提供)

 電力小売りの全面自由化から間もなく3年を迎える。大手電力会社の地域独占を排除し、料金やサービスの競争を促す狙いだが、電力需要が大きい大都市圏を中心に新規参入が活発化している。2年前に始まったガス自由化も加わり、電力やガスの事業者だけでなく、通信や石油元売りなどが入り乱れた激しい顧客獲得競争を繰り広げている。(産経新聞論説委員・井伊重之)

 一方で自由化をめぐる課題も浮き彫りになってきた。それは電力の安定供給をいかに確立するかである。昨年夏には大型台風に直撃された西日本地域で停電が頻発したほか、同年9月に北海道でブラックアウト(全域停電)が発生した。災害大国・日本で電力を安定的に供給する重要性は高まるばかりだ。

 だが、電力業界の競争が加速すれば、安定電源を確保するための設備投資や送配電網の維持・管理などに支障が出かねない。普及が進む太陽光発電でも、買い取り期間が終了した後の再投資に懸念が残る。自由化一辺倒の制度設計の見直しを含めた対策が急務である。

 家庭向けの電力小売りが全面的に自由化された平成28年4月以降、新電力に契約を切り替えるだけでなく、同じ電力会社で料金プランを変更する動きが広がっている。昨年11月の切り替え率は全国平均で22%に達し、欧州の水準に近づいている。電力自由化は一定の成果を挙げつつあるといえる。

 特に需要を抱える大都市圏ではその動きは顕著だ。昨年11月時点の切り替え率は中部電力が30.2%と3割を超え、関西電力で28.2%、東京電力も24.3%となった。大手ガス会社などが電力とガスをセット販売し、従来より5%程度安い料金で大手電力から利用者を奪う構図が定着している。

 地方圏でも中国電力や九州電力、四国電力、北海道電力で10%以上の切り替え率を記録している。やはり地元のガス会社を中心に電力市場に攻勢をかける動きが激化しており、利用者の選択肢は着実に広がっている。

 しかし、決して手放しでは喜べない。昨年9月に北海道電力の苫東厚真発電所が地震で被災し、稼働停止に追い込まれた。これに伴って北海道全域がブラックアウトに陥り、地域の暮らしや産業を直撃した。北電はその後、液化天然ガス(LNG)発電所の新設で供給力を増強したが、自由化に潜むマイナス面の影響にも注意が必要だ。

 電力自由化は大手電力の地域独占を崩し、新規参入を増やす狙いがある。同時に発電コストを電気料金に上乗せする総括原価も廃止された。競争が激化すれば、大手電力は経営効率を優先して余分な電源を保有しなくなる。稼働率の低い電源があると発電コストが上昇するからだ。老朽火力の廃止も相次いでいる。

 大手電力幹部は「これまでは地域独占と総括原価によって、安心して電源に投資できた。その前提がなくなった以上、従来のような安定供給がいつまで可能かは分からない」と冷めた見方を示す。安い電力ばかりを求める動きが広がれば、その分だけ供給安定性は失われる。

 自由化と安定供給は本来、相反する関係にある。北海道のブラックアウトのように全電力が失われる事態になれば、自由化の意味などなくなる。競争が進む中でも、安定供給をいかに確保するかが問われている。その制度設計を改めて考えるべきだろう。

 来年4月には電力自由化の最終形となる発送電分離が実施される。大手電力の送配電部門を分社化し、全国の送配電網を新電力が使いやすくする取り組みだ。すでに電力各社は送配電子会社の設立などの準備に余念がないが、新たな問題も生じている。

 例えば発電所には開閉器と呼ばれる装置がある。送電線への電気の流れを制御する役割があり、発送電一体の現在は発電所で保守・点検している。だが、発送電が分離された後は送配電会社に管轄が移り、同じ発電所の中でも別会社が設備を管理するようになる。これは非効率なだけでなく、停電時などの連携にも懸念が残る。

 政府も台風などで停電が頻発する事態を憂慮し、電力の安定供給に向けた対策の検討を始めた。発電能力を売買する「容量市場」を前倒しで創設し、火力発電の維持を促す方針も示しているが、その実効性は未知数だ。石炭火力発電所の建設をめぐっては強い逆風が吹き、相次いで計画の見直しも迫られている。

 「自由化のための自由化」ではなく、安定電源への投資を促す仕組みづくりも官民あげて検討すべきだ。