中国全人代 景気対策強化、ばらまきリスクに危機感

 
中国全人代が開幕し、会場の大型スクリーンに映し出された李克強首相=5日、北京の人民大会堂(共同)

 中国の全国人民代表大会(全人代=国会)が5日に開幕し、李克強首相は減税やインフラ投資などの景気対策を表明し、米国との貿易摩擦で冷え込みが際立つ景気を下支えする構えを示した。だが、中国経済をめぐっては過去の景気対策がもたらした過剰債務などの構造問題が横たわっており、李氏も「リスク」という言葉を連発して危機感をあらわにした。

 「貿易摩擦により一部の企業の生産や経営、市場の期待が影響をこうむった」

 米中貿易摩擦の影響を、李氏は政府活動報告でこう強調した。昨秋から中国の経済指標は貿易摩擦深刻化で軒並み悪化し、昨年の実質国内総生産(GDP)は前年比6・6%増と28年ぶりの低水準に。今年に入っても企業の景況感や個人消費は低迷傾向が続く。

 そういった中、政府活動報告では大規模な減税の実施や、企業の「資金繰り難、資金調達コスト高」緩和、鉄道などのインフラ投資の拡大を表明。ビッグデータや人工知能(AI)などの研究開発と応用を強化し、新興産業の発展を促すことなどが盛り込まれた。

 特に強調したのは、小・零細企業を中心とした民間企業に向けた施策だ。中小企業向けブロードバンドの平均使用料を15%、モバイルデータ通信の平均パケット料金を20%以上引き下げるといった細かい対策もあったが、景気悪化で拡大する不満を食い止める狙いもうかがわれる。

 一方で、政府活動報告の随所に見られたのは「リスク」への警戒だ。

 「近視眼的になって長期的発展の妨げとなる短期的な強い刺激策を講じ、新たなリスク要因を生み出すことも許されない」

 李氏は「ばらまきをしない」など過度の景気対策を戒める言葉を繰り返した。

 2008年のリーマン・ショック直後に打ち出した大型景気対策では、過剰債務や不動産バブルといった構造問題が深刻化。いずれも中国経済の致命傷になりかねないアキレス腱(けん)で、今年に入って習近平国家主席も「灰色のサイ」という金融用語を使い、将来大きな問題となる可能性が高いのに軽視されがちな潜在リスクへの警戒を強調した。

 李氏は「今年わが国の発展が直面する環境は複雑さと厳しさが増す」との見通しを示したが、中国政府は景気悪化と経済リスクという2つの難題を前に今年も難しい経済運営を求められる。(三塚聖平)