【論風】今後10年のメガトレンド おごりと焦りのドカ貧避けよ

 
※画像はイメージです(Getty Images)

 今後10年のメガトレンドを見誤ってはならない。かつて日本は、石油禁輸にあって「ジリ貧」を避けるため対米開戦に踏み切り、敗戦という亡国の危機、「ドカ貧」に陥った。軍部だけでなく、指導層もマスコミも、おごりと焦りで戦争に突き進んだ教訓は忘れてはならない。いま、欧米型金融資本主義は、世界に貧富の格差を拡大させ、その目指したグローバリズムは世界を破綻させつつある。(武蔵野大学客員教授・土居征夫)

 中国経済は過剰投資で深刻な局面にあり、その実質成長を減速させ、米中経済対立がそれを加速しつつある。中国の成長は公式発表とは異なり、実質ゼロからマイナスに陥ったという見方もある。米国経済の好調も、その資産バブルがはじける臨界点に近づいている。欧州経済の低迷も相まって、世界のマーケットは縮小し、新興国は高度成長を維持することが困難となり、世界全体で、さらなる社会不安の増大、地域紛争拡大が必至の状況だ。

 主役は中堅・中小企業

 このようなメガトレンドを前提に、日本はどのような選択をなすべきか。経済・産業の側面での選択肢も慎重に考えなければならない。日本の選択は(1)おごらず焦らず(2)力を蓄えつつ着実に(3)希望を持って一歩を進める-これしかない。もはや海外市場依存型のグローバル企業にのみ期待する産業政策は成り立たない。なにせこれまでのような世界マーケットの量的拡大は見込めない状況になったのだから。

 日本には1億人超の健全な国民の落ち着いた生活文化があり、この上に成り立つ内需型企業の善戦に期待すべきではないか。海外でもうける高い成長は期待できないが、少しずつ力を蓄えていくことはできる。

 生活・文化の質の高さと、消費の健全さこそ日本の宝である。日本の戦後も、財閥企業の復活というより、新しい振興企業の大企業への成長によって支えられた面が大きい。

 世界経済の混乱と成長ストップの中で日本国内の豊かな市場を前提とする新しい中堅・中小企業群にこそ未来がある。日本型知的ロボットなど、人工知能(AI)時代の勝者もそこから生まれつつある。

 カメの歩みを

 評論家の中前忠氏は近著「家計ファーストの経済学」で「80年代以来世界経済はマネー供給の拡大に依存し、企業収益を優先させる『企業ファースト』で動いてきた。これから、歯車は逆転する。マネー依存経済が終わり、グローバル化時代が終焉(しゅうえん)し、経済のローカル化が進む。そこでは、消費する力が繁栄を左右する。これからは『家計ファースト』への転換が必要であり、それに成功すれば日本は新たな成長への機会をつかめる」と主張する。

 経済学者の寺西重郎氏は近著「日本型資本主義-その精神の源」で、「鎌倉時代の宗教改革により、国民全体に広がった仏教文化は、武士階級に武士道をもたらし、室町時代に匠の文化(モノづくり)を育て、江戸時代には石田梅岩や二宮尊徳などの力で商人道徳や農民の勤勉思想に及び、それが今日の日本資本主義の発展のベースとして生きている。西洋キリスト教文明が生んだ資本主義が揺らぎつつある現在、人類に貢献できるのはプーチン露大統領や習近平・中国国家主席型の国家資本主義ではありえず、韓国や中国が志向する統治原理を儒教とする資本主義でもなく、第三世界、アジア諸国の支持を受ける日本資本主義の流れではないか」と示唆している。

 大東亜戦争の開戦時、戦争という「ドカ貧」より、苦難の道ではあるが「ジリ貧」を選択せよと主張した重臣たちの提言は、国家の発展に短期的な成果を求めるおごりと焦りと欲望に満ちた現役リーダーを抑えられなかった。いま日本は、紆余(うよ)曲折が予想される世界情勢の苦難の道を、楽観も悲観もせずにじっくり見極め、自らの力を蓄えつつ、希望をもって一歩一歩カメの歩みを進めるときかもしれない。

【プロフィル】土居征夫

 どい・ゆきお 東大法卒。1965年通商産業省(現経済産業省)入省。生活産業局長を経て94年に退官。商工中金理事、NEC常務を経て、2004年以降、企業活力研究所理事長、学校法人城西大学特任教授などを歴任。10年10月から現職。世界のための日本のこころセンター代表理事。日本信号顧問。77歳。東京都出身。