シンガポール、外国人雇用の門戸狭まる 自国民を優先、就労ビザ発行要件厳格化
シンガポール政府が国民の雇用確保のため、外国人の就労条件の厳格化を進めている。外国人を積極的に受け入れ経済成長を遂げてきたが、国民から「職が奪われている」との不満が噴出し、2011年ごろから政策転換した。企業が条件に対応できず、就労を諦めてシンガポールを去る人も。労働者の3人に1人が外国人という国際都市の門戸が狭まっている。
11年5月の総選挙で与党・人民行動党は勝利したが、野党が過去最多の議席を獲得。所得格差や移民政策への反発が背景とされ、政府は同年8月「外国人労働者への依存度が高まらないようにする」と就労ビザ(EP)発行要件の見直しを発表、国民優先を打ち出した。
専門職や管理職が対象のEP発行のための最低月給や学歴など要件を引き上げ、年齢や経歴が高い人を雇用する企業にはさらに高い給与支払いを要請。14年以降は国民に平等な雇用機会が与えられたことを示すため、一定規模以上の企業はシンガポール人向けの求人サイトに募集広告を14日間以上出さなければ外国人を採用できなくなった。
発行要件は段階的に厳しくなり、17年には月給3600シンガポールドル(約30万円)以上と、6年間で1000シンガポールドル以上も引き上げられた。ある人材派遣会社の経営者は「仕方なく10%の昇給に踏み切った」。シンガポール人の雇用に切り替える企業もある。
日系美容室の新規開店に合わせて昨年、日本人従業員のEPを申請した男性は「なぜこの人を採用しなければならないのか当局に説明を求められ、申請をやり直し、発行までに何カ月もかかった」と振り返る。
企業ごとの外国人労働者の割合に対するチェックも厳しくなった。政府は16年から「不当に外国人を優遇した」と判断した企業を監視リストに載せて指導。地元紙によるとこれまでに計約500社が掲載され、雇用方針を変えなければEPの新規発行や更新を認めないなどの対策が取られた。
日本の大手建設会社の30代男性は昨年11月、EPの更新を却下され帰国を余儀なくされた。政府から理由の説明はなかったが「日本人従業員が多すぎて目を付けられたのだろう」と話す。
EP所持者数の伸び率は縮小、17年は前年比4600人減の18万7700人と減少に転じた。ただシンガポールは少子高齢化問題を抱え、人口減少による経済競争力低下への懸念もある。シンガポール社会科学大のウォルター・テセイラ准教授(経済学)は「労働力確保のため規制は徐々に緩和されるのではないか」と分析する。(シンガポール 共同)
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