【中国ウオッチ】コップ持参が新常識とは…官製メディアも大きく報道、五つ星ホテルで衝撃の衛生管理
中国の五つ星ホテルが、客が使ったタオルでコップやトイレの便器を清掃している実態を人気ブロガーが暴露し、波紋を広げている。中国では社会的な反響が大きい事件は当局が情報統制を行うのが常だが、官製メディアもこの問題を大きく報道した。一消費者の告発というよりも、さながら国策キャンペーンの様相を呈している。(西見由章)
「コップの秘密」
騒動の発端となったのは約32万人のフォロワーを持つ男性ブロガーが11月14日、中国版ツイッター微博にアップした11分間余りの映像だ。「コップの秘密」と題された動画にはシェラトンやリッツ・カールトン、シャングリラといった世界一流のホテルチェーンによる室内清掃の衝撃的な実態が隠し撮りされていた。
清掃員が床に落ちていた使用済みのバスタオルを使ってコップや洗面台、便器を次々と拭く。
汚れた雑巾でコーヒーカップを拭く。
自分が着ている作業着でコップを拭く。
ごみ箱に捨てられたコップのプラスチック製ふたを取り出し、自分のTシャツで拭いた後に再使用する。
これらの画像は数カ月かけて、国内の高級ホテル14カ所で撮影したとされる。男性ブロガーは40代の企業経営者で、過去6年間で147軒の五つ星ホテルに計2000日以上宿泊しているという。
「ホテルの備品はできるだけ使いたくない」
「最も高級な中国のホテルも、衛生や道徳のレベルは日本の小さな旅館におよばない」
インターネット上では、高級ホテルのずさんな衛生管理に対する怒りの声が広がった。
軽すぎる処分に批判
告発動画に含まれていた「南昌シェラトンホテル」を管理する江西省当局は同ホテルなどへの立ち入り調査を実施した。20日に発表した調査結果では「重大な違法行為や規則違反はみつからなかった」としながらも、「一部職員の作業が基準に達していなかった」として同ホテルに2000元(約3万2千円)の罰金を科したことを明らかにした。ただネットユーザーからは「たった2000元? 万が抜けているのでは」「一泊もできない値段」などと“軽すぎる処分”への批判が相次いだ。
「天猫」(Tmall)などのネット通販サイトでは、ホテル宿泊時の自衛策として、折りたたみ式のコップや使い捨てタオルなどが売れ筋ランキングで急上昇するなど“本末転倒”な事態となっている。
官製メディアも大々的に
国営中央テレビ(CCTV)などの官製メディアも今回の問題を大きく報じた。実は昨年も中国の地方メディアの記者が潜入取材を行い、高級ホテルの「ワンタオル清掃」や使用済み歯ブラシの使い回しなどを暴露している。
中国メディアの論調は、清掃員のモラルに対する批判よりもホテル経営者の責任を問う声が圧倒的だ。広州の四つ星ホテルに勤務する清掃員は中国紙・南方日報(電子版)に対して「1日23部屋の清掃を求められるが、特に汚れた部屋は2~3時間の掃除が必要になる」と人員や時間の不足を指摘した。また専門家は同紙に「今回の問題はホテルの管理者が衛生管理を軽視している表れだ」とコメントしている。
告発された14軒のホテルのうち米国資本が7軒と半数以上を占めている。残りはカナダや香港、シンガポールなどだ。このためネット上では、中国の半導体メーカー「福建省晋華集成電路」への輸出制限措置など米当局が中国の半導体・通信企業に圧力を強めていることに反発する中国側の一種の「シグナル」だと勘ぐる声もある。
一方、中国では官製メディアが外資系企業の問題を定期的に暴露し、消費者の“喝采”を得ようとする動きも常態化している。
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