健康づくりにポイント付与制度が広がる 商品券などと交換…医療費の抑制にも期待
ウオーキングや検診の受診など、健康のための活動をポイントに換算し、商品券などと交換できる制度が全国の自治体で広がっている。健康づくりを身近に感じてもらおうと始められた取り組みだが、手軽さからか運動にあまり縁のなかった人たちの参加率が高くなる効果もあるという。医療費抑制にもつながるため、あの手この手で市民の健康づくりに力を入れている自治体が増えている。(猿渡友希)
医療費抑制にも期待
大阪府高石市千代田の木下郁子さん(74)はほぼ毎朝、市総合保健センターで行われる体操に参加している。参加者は数十人。終了後にはセンター内の小さな機械に市から貸与された歩数計をかざす。歩数計は消費カロリーなどをはかる活動量計を兼ねており、一定の運動量や歩数をポイントに換算することができる。
木下さんは、たまったポイントを商品券に交換し、日用品の購入などに使っているという。「毎朝外に出て体を動かすので、風邪も引かず、健康です」と話し、「知人も増えた」と笑顔を見せる。
平成23年に健康的なまちづくりを目指す国の特区に認定された同市は26年から3年間、全国の5市とともに「健幸ポイントプロジェクト」という社会実験に加わった。
プロジェクトには約2千人が参加しているが、うち8割がもともと運動に無関心だったり、不十分だったりした人だという。これまでの取り組みの結果、参加者の歩数は、国が推奨する1日8千歩を上回った。さらに、1人あたりの年間医療費の平均額は参加していない人と比べ、7.7万円(27年度)も少なくなった。
こうした効果を踏まえ、同市は29年10月から、独自で「健幸ポイント事業」をスタートした。ウオーキングや体操への参加、検診の受診などでポイントがたまる仕組みで、これまで約2800人が参加。健康に関する講演会には多くの市民が集まっており、市の担当者は「効果に手応えを感じている。もっと多くの人に参加してもらい、ますます健幸なまちにしたい」と話した。
一連のプロジェクトを主導してきた筑波大大学院・人間総合科学研究科の久野譜也(しんや)教授(健康政策)は「健康無関心層の掘り起こしに、ポイント制度などのインセンティブは有効で、多くの自治体が取り入れている。今後は、各自治体がより魅力的な健康事業を行えるようより知恵を絞ることが必要だ」としている。
328市町村が導入 2年後倍増めざす
健康づくりとポイント付与を組み合わせた自治体独自の取り組みは全国各地で広がっている。医療費抑制への対策との側面もあり、国もガイドラインを策定するなどの支援に乗り出している。
今年4月からは、兵庫県川西市、新潟県見附(みつけ)市、千葉県白子町の3市町が、市域を超えた取り組みを開始。民間資金を活用して社会的課題を解決する枠組み「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)」を利用した試みで、川西市の担当者は「財政面などから単独では実施が難しかったが、同じ思いを持つ自治体と連携することで可能となった」と強調。今後5年間で1万人以上の参加と、1億8千万円の医療費抑制を目指すとしている。
一方、横浜市が平成26年から行っているのは「よこはまウォーキングポイント」。大阪府高石市と同じく、歩数ごとにポイントがつき、抽選で商品券が当たるほか、参加者の月平均歩数が10万歩以上になると、市が国連世界食糧計画に寄付金を送るという取り組みも始め、29年12月までに計640万円を寄付した。
経済団体や医療団体でつくる「日本健康会議」のホームページによると、ポイント事業などで市民の健康づくりを推進するこうした自治体は328市町村あり、「32(2020)年度までに800市町村以上」という目標を掲げている。これらの動きを受け、国も、28年に情報通信技術(ICT)を活用したわかりやすい検診結果の提供やゲーム性のある健康づくりプログラムの提供などを盛り込んだガイドラインを策定している。
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