パラオ、入国時に自然保護「宣誓」署名 環境と観光両立へ世界初の試み

 

 観光立国の太平洋の島国パラオが、独自の環境保全対策を次々に打ち出している。入国時にパスポートに押すスタンプを変更し、自然保護の「宣誓」に署名を求める世界初の試みを導入。環境と観光の両立に向け、小国が挑戦している。

 「私は客人として、皆さんの美しくユニークな島を保存し保護することを誓います」「自然に消える以外の痕跡は残しません」。入国審査場で日本語や英語、中国語などで書かれた誓いの言葉のスタンプが、パスポート1ページ分の大きさで押される。訪問者は一読後、その場で係官に署名を求められる。「パラオ誓約」と呼ばれ、昨年12月7日に導入、5万人以上が「誓い」の意思を示した。署名は義務で、拒否や抵抗をした人はいないという。

 「サンゴを踏んだり、取ってしまったりする人は初めての訪問者に多い」と、パラオで活動する環境保護団体のニコール・ファガンさんは指摘する。「パラオ誓約は訪問者を締め出すのが目的ではなく、来訪時に環境保護のことを少しでも意識してほしいのです」

 今年2月には最大都市コロールで、パラオ親善大使を務める女優の田中美奈子さんがパラオ誓約に署名する式典が開かれ、出席したレメンゲサウ大統領は「署名は世界中の子供たちへの(環境を守るという)約束となるだろう」とあいさつした。

 レメンゲサウ氏は環境保護を重視した政策を進めている。生態系を守る目的で、パラオの排他的経済水域(EEZ)の8割に当たる50万平方キロの海域を海洋保護区に指定し、全ての漁を禁止する取り組みが代表的だ。

 また、パラオ出国の際に課していた30ドル(約3200円)の環境税を廃止し、代わりに「プリスティン・パラダイス(汚れのない楽園)環境税」を1月に新設。パラオ行き航空券の代金に上乗せする形で、1人100ドルの徴収を始めた。

 環境保護を前面に打ち出した政策には、地元の観光業界の一部からは懸念の声も上がる。「禁止事項を強調されるとうんざりされる」「環境税増税は痛手。旅行者が近くのグアムや物価の安いフィリピン・セブ島に逃げてしまう」などだ。

 それでもパラオ政府観光局は強気の姿勢を崩さない。幹部のジョン・サナー氏は「小国だが持続可能性と環境保護の面では世界の最先端にいる。自然という掛け替えのない財産を未来の世代に残したい」と話した。(コロール 共同)

【用語解説】パラオ

 大小200余りの島で形成される島国。首都はマルキョク。人口約2万1000。1914年の第一次大戦開戦後に日本が占領し、22年に行政機関の南洋庁を設置。日本から多くの人が入植、40年代には2万人以上が暮らす。太平洋戦争中の44年、南部のペリリュー島で日米両軍が激戦を繰り広げ、日本側だけで約1万人が死亡した。終戦後は米国の統治下に置かれた後、94年に独立した。(コロール 共同)