【マネー講座】《債券入門》(3)〈債券市場と長期金利〉価格と利回りの深い関係
今回は、前回の債券の基本的なしくみで学んだ基礎知識をもとに、債券利回りの計算方法を説明します。そして、私たちの生活にも関わり深い長期金利と債券との関係について解説します。なお、理解を進めやすくするために、前回に引続き、最も一般的な債券である「確定利付債」に対象を絞って説明していきます。(三井住友信託銀行 瀬良礼子)
債券利回りはこうやって計算する
利回りとは、運用期間全体にわたって発生するすべての収益について、元本に対する割合を年平均したものです。つまり、利回りは1年当たりの収益が元本に対して何パーセントの割合となるか、を計算します。
前回説明したように、債券の収益には、(1)利息(インカム・ゲイン)と(2)値上がり益(キャピタル・ゲイン)があります(厳密には(3)再投資収益もありますが、ここでは取り上げません)。
まず、1年当たりの利息は、利率(クーポンレート)に償還価格(=額面価格)100円を掛け合わせると計算できます。
次に、値上がり益については、運用期間全体にわたって徐々に発生すると考えますので、値上がり益を債券購入時から償還期限までの期間(年単位)で割ると、1年当たりの値上がり益が計算できます。
なお、債券購入時から償還期限までの期間を「残存期間」といいます。償還価格よりも高い価格で債券を購入した場合は、値上がり益はマイナスとなり、「損失」となりますが、計算方法はプラスの値上がり益と同様です。
続いて、1年当たりの収益の合計について、元本に対する割合を計算します。
元本は、運用を開始した時に投入する金額ですので、この場合は債券購入価格に対する割合を計算します。額面価格の100円ではないことに注意しましょう。
最後に、利回りをパーセント表示するため、100を掛けます。
以上のことを計算式で表すと、図のようになります。第2回で図示した「債券保有者の資金の支払い・受け取りのパターン」の例を用いた、債券利回りの計算例も示してあります。
債券の価格と利回りの関係
債券を購入することを前提としなくとも、計算式の「購入価格」の部分を、現在市場で取引されている「債券価格」に置き換えることで、債券利回りは算出できます。既に説明したように、債券価格は市場で取引されて変動しますので、債券利回りも同時に変動します。
では、債券価格と債券利回りの動き方にはどのような特徴があるのでしょうか。
図で示したように、債券利回りは、利率、償還価格、残存期間、そして現在の債券価格がわかれば計算することができます。
これらのなかで、利率と償還価格は債券が発行されるときに決まっています。また、償還期限が発行時に定められているため、残存期間は現時点から償還期限までの期間として、時間の経過以外の要素から影響を受けません。
したがって、債券利回りの計算式の中で、債券価格だけを取り出してみると、変動する債券価格と利回りの関係が見えてきます。別の図は、左辺と右辺の計算式が等しくなるように、債券利回りと債券価格の変化の方向を矢印で示したものです。
図にあるように、債券価格が上昇しているときには利回りは低下し、逆に、債券価格が下落しているときは利回りが上昇するという関係がわかります。
なお、このような債券の価格と利回りの関係は、どちらが先に決まるというものではありません。コインの表と裏のようにセットで決まるもので、表示の仕方が異なるだけです。同じ債券を、価格でみるか、利回りでみるか、という違いです。
10年物の国債利回りが代表的な長期金利
ここまで、債券利回りの計算方法について細かく述べてきましたが、それには理由があります。
一般的に10年物の国債利回りが代表的な長期金利とされています。そのため、10年物国債が売られて価格が下がると、利回りつまり長期金利は上昇します。逆に、10年物国債が買われて価格が上がると、利回りつまり長期金利は低下します。なかには、長期金利の動向は生活を営む上で関係ないと思う人もいるかもしれませんが、私たちは様々な形で長期金利と関わっています。
例えば、住宅を購入するとき、ローンを組む人が多いでしょう。住宅は人生で最も高額の買い物といわれるくらいですから、20年や30年といった長期間の借り入れになりがちです。住宅ローンを組もうとするときに、10年物の国債利回りが上昇すると、住宅ローン金利も影響を受けて上昇するため、ローンの利息返済の負担が大きくなります。
一方で、長期金利が低ければよいかというと、資産形成の選択肢として債券を選びにくくなります。確定利付債を購入し、10年・20年といった長期間の資金運用を超低利回りで固定するのは、なかなか難しい選択です。
日本では近年、長期金利が非常に低い水準で推移しているため、興味を持ちにくいかもしれません。しかし、長期金利は私たち個人の資金調達や資金運用にも深い関わりがあります。次回は、そのような長期金利がどのような要因によって変動するのか、ご説明します。
(※マネー講座は随時更新。次回も「債券入門」をテーマに掲載します)
【プロフィル】瀬良礼子(せら・あやこ)
マーケット・ストラテジスト
1996年より自己勘定の運用企画を担当。以後、現在にいたるまで、為替・金利を中心にマーケット分析に従事。マーケット企画部で手掛けた「投資家のためのマーケット予測ハンドブック(NHK出版)」、「60歳までに知っておきたい金融マーケットのしくみ(NHK出版)」の執筆スタッフの一人でもある。
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