激化する「米中貿易戦争」の裏で続く神経戦 衝突回避に相手の腹の探りあい
知的財産の侵害をめぐり、3日に中国への制裁措置として追加関税を課す対象品リストの原案を公表した米国に対し、中国は即座に報復関税で応じ世界貿易機関(WTO)にも提訴した。ただ、このまま対立が続けば、互いに自国の産業への影響が避けられないのは必至。一見、激化する米中両国の「貿易戦争」の裏では、正面衝突を避けようと相手の腹を探る神経戦が続いている。
「双方がテーブル上に問題を並べた。今からは協議し、協力する時間だ」
中国の朱光耀財政次官は4日の記者会見でこう述べ、「わがままで衝動的な行為」と追加関税について強く批判した米国に対し、対話によって衝突を回避すべきだと呼び掛けた。
中国が米国に対して強気の姿勢で臨むのは、「押せば要求を通せる」と米国に足元を見られるのを避けるためで、あえて強気の態度を演じているとの見方も強い。というのも、本格的な米中貿易戦争に陥れば、米国市場で競争力を失うだけでなく、人民元相場の不安定化といった多くのリスクをはらむ。
さらに、今回、米国が制裁措置の対象としたハイテク分野は譲れない領域でもあるからだ。昨年秋の共産党大会で習近平総書記(国家主席)が打ち出した「今世紀半ばまでに世界のトップレベルの国家になる」との目標を実現する上でも、この分野での覇権拡大は欠かせない。このまま報復合戦が緊張感を増せば、最悪のシナリオが現実にもなりかねない。
一方の米国も事情は同じだ。今回の中国に対する制裁措置が、11月の中間選挙をにらんだトランプ大統領の「選挙対策」だとしても、得る利益より失う代償の方が大きい恐れもある。
米IT業界団体の情報技術産業協議会(ITI)は3日、中国への追加関税に関して声明を発表し、「製品価格を上昇させ、米国の消費者を不利にすることになる」と指摘。関税ではなく、他国との協調によって中国に問題への対処を迫るべきだと訴えた。
米調査機関の情報技術イノベーション財団(ITIF)は3日、「中国政府による通商政策の乱用を押し返そうとするトランプ政権は正しい」との声明を出したが、関税適用には反対とした。製品の製造に不可欠な工作機械などの調達価格が上昇し、企業の設備投資意欲が減退する可能性があるとの懸念を示す。
米通商代表部(USTR)が3日に公表した追加関税を課す製品のリスト案には、中国側への一定の配慮も垣間見える。中国が産業政策で重点分野に掲げるハイテク製品を狙った一方、アップルなどの米ブランド向けに供給されるスマートフォンやノート型パソコンなどは除外した。中国の主要輸出品となる靴や衣類も盛り込まれていない。
また、大型航空機や通信衛星など「昨年、対米輸出の実績がない約200以上の品目がリストに掲載されている」(ロイター通信)といい、中国の輸出に決定的な打撃となる品目の選定を避けた可能性がある。
ロス商務長官は4日朝の米CNBCテレビで「結果的に(米中間の)交渉につながるとしても、まったく驚きはない」と述べ、今回の知的財産をめぐる米中両国の応酬が、解決に向けた協議入りにつながることに期待感を表明。中国政府が発表した報復措置についても「米国の知財侵害に対する関税措置に比例している」との認識を示した。
ただ、いったん振り上げた拳をすぐに下ろすのは難しい。それに見合う十分な妥協点を見いだすには、時間が必要となりそうだ。(ワシントン 塩原永久、北京 西見由章、三塚聖平)
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