【マネー講座】《債券入門》(2)〈基本的なしくみ〉利息や値上がり益が収益に

 

 前回は、債券が借り入れの証拠の証券であること、主な債券の種類、取引される市場について説明しました。今回は、債券の基本的なしくみについて、もう少し詳細に説明していきます。(三井住友信託銀行 瀬良礼子)

債券の基本的な約束ごと

 債券は、国や企業のいわば「借用証書」ですので、資金をいくら借り入れ、その利息がいくらになるか、また、いつ返済するかなどの約束ごとが予め決められています。債券の基本的な約束ごとは、「額面金額」「償還期限」「利率」「利払日」の4つです。

 「額面金額」は返済期日にその債券を保有している人が受け取る金額です。債券の多くは、発行してから返済されるまで額面金額は変化しません。額面金額が返済されることを「償還」といい、その期日が「償還期限」です。

 「利率」は「クーポンレート」とも呼ばれ、額面金額に対する1年当たりの利息の割合のことです。「クーポン」というと、買い物の割引券をイメージしてしまいますが、電子化される以前に紙で発行されていた債券には、利札つまりクーポンがついており、それを切り取って利息を受け取っていました。

 「利払日」は文字通り利息を支払う日です。例えば利払いが年2回の場合は「3月20日と9月20日」といった具合に定められます。

 この4つの約束ごとが定まっていることによって、債券を購入する投資家は、いつ、いくらの資金を受け取るかを予め知ることができます。ただし、変動利付債のように利率が変化する債券や、物価連動債のように額面金額が変動する債券もあるので注意が必要です。

 債券には様々な種類がありますが、この講座は「入門レベル」を対象としているので、理解を進めやすくするために、ここからは、最も一般的な債券である「確定利付債」に話を絞って説明していきます。

債券価格は市場で取引されて変動する

 ところで、額面金額は債券の種類によって異なります。額面金額が1億円の債券もあれば、1万円の債券もあります。いろいろな債券を比較する際、額面金額が異なると不便ですので、単位をそろえた価格、つまり単価で考えます。日本では債券の単価を額面100円として基準をそろえています。

 発行市場や流通市場で取引される債券の価格は、額面100円当たり何円になるか、で表されます。例えば、発行市場で新たに債券を売り出すときに、その債券を買いたいというニーズが強い場合は額面の100円よりも高い101円となる場合もありますし、逆に100円よりも低い99円で売り出される場合もあります。

 流通市場でも、投資家の売り買いのニーズによって債券の価格は変動します。債券の売り手が多ければ債券価格が下落し、買い手が多ければ債券価格は上昇します。この債券価格は発行市場と同様、 額面100円あたり「何円」と表され、変動していきます。

 債券の売り手と買い手は、様々な経済・金融の環境を考慮しながら、さきほど説明した債券の約束ごと(額面金額・償還期限・利率・利払日)を評価し、お互いのニーズが合致する価格で売買を成立させます。考慮する経済・金融の環境は、時々刻々と変化するため、債券価格も一定ではなく変動します。

債券の収益はどこからくるか

 債券に資金を投資して得られる収益には、(1)利息、(2)値上がり益、(3)受取利息の再投資から発生する収益、の3種類があります。しかし、(3)の再投資収益を考慮に入れるとかえって債券を理解しづらくなるため、ここでは簡便的に、債券の収益は(1)利息と(2)値上がり益の2種類と考えてください。

 利息は「インカム・ゲイン」ともいい、利率(クーポンレート)から発生する収益です。一方、値上がり益は「キャピタル・ゲイン」ともいい、債券価格の変化から発生する収益です。

 2番目の図は、確定利付債を購入し償還期限まで保有した場合に、時間の経過にしたがって収益がどのように発生するか、例を示したものです。「利息」は利率に基づいて一定期間ごとに発生し、「値上がり益」は購入時と償還時の価格差から発生する様子がわかります。

 なお、図の例では、債券購入時が次の利払のちょうど1年前になるように設定しています。現実的には、このようにぴったり利払日に合わせて売買されるわけではありません。保有期間に応じた「経過利息」が債券の売り手と買い手の間で調整されますが、ここでは詳細を省きます。

 以上のように債券投資を開始してから終了するまでのお金の支払いや受け取りを細かく説明したのには、理由があります。次回で取り上げる「債券利回り」を理解するための土台となるからです。

 では、なぜ「債券利回り」を理解する必要があるのでしょう。

 例えば、図の例と同じように、償還期限まで3年で利率が1%の債券があるとします。ただし、図と異なり、現在の価格が105円だったとします。毎年1%の利息を受け取ることができるので、この債券を償還まで保有してプラスの収益を得られると思いますか?

 皆さんはお気づきですね。購入価格が105円では、償還価格の100円との差額が▲5円の値下がり損となり、3年分の利息合計の3円が吹き飛んで、2円の損失となります。

 投資の期間全体にわたって発生する利息およびすべての収益を反映した「債券利回り」を理解すれば、この例のような紛らわしい状況も冷静に判断することができます。

 今回の債券のしくみを基礎知識として、次回は債券利回りの計算方法と、債券と長期金利との関係についてご説明します。

(※マネー講座は随時更新。次回も「債券入門」をテーマに掲載します)

【プロフィル】瀬良礼子(せら・あやこ)

三井住友信託銀行マーケット企画部
マーケット・ストラテジスト
1996年より自己勘定の運用企画を担当。以後、現在にいたるまで、為替・金利を中心にマーケット分析に従事。マーケット企画部で手掛けた「投資家のためのマーケット予測ハンドブック(NHK出版)」、「60歳までに知っておきたい金融マーケットのしくみ(NHK出版)」の執筆スタッフの一人でもある。

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