【中国電子マネー事情】(上)支払い難民発生…「キャッシュレス社会」の光と影
■利便性向上、“支払い難民”発生
「お客さんの8割くらいはスマホ払いね。現金を受け取っておつりを渡すより簡単。仕事が終わってから、山のような一元コインや五元札を数えるのはもう面倒だわ」。上海市内のバス停脇で焼き芋を売っていた女性は、屋台に自分の口座を示す「QRコード(スマートフォン決済用の2次元マーク)」を掲げ、客にスマホでの支払いを求めていた。
大きいもので1個10元(約170円)ほどの焼き芋。冬の風物詩だが、スマホを使った代金の支払いサービスが爆発的に広がる中国では、レストランやシェア自転車のみならず、屋台までキャッシュレス化される時代がやってきた。正式な営業許可の有無や納税の実績に関わりなく、自分の口座を示すQRコードさえ店先に掲げれば代金を受け取れ、商売が成り立つ。
屋台の女性は「以前はニセ札の百元をつかまされたこともあったけど、スマホ払いにしてからは心配なくなったし、お客さんもケチることが少なくなった。今度からは現金お断りにするわ」と笑顔を見せた。
2系統のサービス
中国のスマホ決済は大きく2系統ある。電子商取引大手のアリババ系の「支付宝(アリペイ)」と、IT大手の騰訊(テンセント)系の「微信支付(WeChatPay)」だ。お客は自分のスマホの専用アプリでどちらかのサービスのQRコードを読み込み、スマホに支払額を入力して、パスワードか指紋で認証すれば決済完了だ。
スマホを中心に7億5000万人ものネットユーザーを抱える中国。中央銀行の中国人民銀行が年末にまとめた2017年7~9月期の国内モバイル決済額は前年同期比39.5%増の49兆2600億元(約837兆円)に上った。決済件数は46.7%増の97億2200万件という。企業間の決済なども含まれるため単純にスマホ決済のみと言い切れないが、ネット総人口で割れば3カ月の間に1人平均で13回近く、パソコンやスマホによる決済を行った計算になる。
IT企業に革新的発想
中国ではそもそも個人信用を重視するクレジットカードが普及しておらず、支払いと同時に口座から引き落とされるデビットカード型の金融サービスが先行した。そこにアリババなどが目を付けて、カードの代わりにスマホ、専用回線の代わりにネットを使って決済を行うシステムを作った。レストランなどが争って採用したことに加え、日本でも知られるシェア自転車など新たな消費者サービスを生む金融インフラにもなった。
中国の都市部では、消費者をめぐるありとあらゆる商品やサービスの代金の受け渡しが「現金お断り」に転じ始めた。ネット金融への規制や法整備がゼロに近かったことが、IT企業に革新的な発想で決済システムを作り上げる環境を与え、それを人民が熱狂的に受け入れた。
だが、中国国内に銀行口座のない観光客など外国人はサービス対象外。中国で実名登録したスマホも欠かせない。さらに中国人でも、スマホのない高齢者や農民が“支払い難民”になりつつある。決済機能を悪用した事件も頻発。キャッシュレス社会の光と影が浮かび上がる。(上海 河崎真澄)
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