世界の都市で「オリンピック離れ」鮮明 招致レースで相次ぐ撤退、IOCに危機感と焦り
五輪招致から撤退する都市が近年、相次いでいる。かつては多くの都市が争った招致の深刻な冷え込みは、大会の肥大化に伴う巨額の財政負担に対する不安が背景にある。世界中の注目を集めるスポーツの祭典は今、岐路に立たされている。
9月に開催都市が決まる2024年夏季五輪の招致レースには当初5都市が立候補したが、ハンブルク(ドイツ)、ローマ、ブダペストが撤退した。北京が選ばれた22年冬季五輪招致でも4都市が途中で断念しており、2大会続けて最終候補が2都市しか残らない異例の事態となった。巨大イベントに向けられる市民の目は厳しさを増すばかりだ。
ハンブルクは住民投票で反対が半数以上を占めて脱落し、ローマは市長の交代で風向きが変わり、財政難を理由に降りた。ブダペストは「五輪の予算を医療や教育に使うべきだ」と主張する反対派に野党が賛同して大きなうねりを生み、世論に押される形で市長が決断した。インフラ整備を含めた総経費が4兆円超となった14年ソチ冬季五輪をきっかけに、五輪離れは顕著になった。
IOCに危機感と焦り
危機感を抱いた国際オリンピック委員会(IOC)は同年末に中長期改革の指針「五輪アジェンダ2020」を採択し、開催都市の負担軽減や大会の魅力を高める改革を進めてきた。既存施設や仮設施設の活用を奨励し、例外的に一部競技を国外で実施することも容認。開催計画に柔軟性を持たせることで門戸を広げ、招致レースを活発化させる狙いだった。
だが、招致段階で見込んだ予算の膨張に歯止めはかからない。20年五輪を開催する東京は「売り」だった「コンパクトな会場計画」を崩してまで圧縮に取り組むが、予備費を除いても総費用の試算は1兆3850億円まで増大した。
五輪のイメージ悪化を避けたいIOCは「まだ削減できる」と東京都や大会組織委員会に迫る。準備状況を監督する調整委員会のコーツ委員長も「(五輪に)怖くて近寄れないというのではなく、立候補してもいいと思えるようになることが大事」と焦りを隠せない。開催する側にコスト削減を求めるIOCには冷ややかな視線も注がれる。IOC関係者は高級ホテルに滞在し、五輪レーンを専用車で移動するVIP待遇。24年五輪開催を目指すパリを5月に視察した際には、記者会見で世界有数の公共交通網を評価したIOC委員に「コスト削減とIOCのイメージ向上のために、自分たちも公共交通機関で移動したらどうか」と厳しい質問が飛んだ。
経済的リスク負わず
IOCは7月の臨時総会で、24年五輪招致を争うパリとロサンゼルスを24年と28年の2大会に振り分ける異例の開催都市同時決定案を承認した。開催能力が高く、財政基盤も強固な両都市を確保して将来のリスクを回避する秘策に、バッハ会長は「2都市とIOCの3者のいずれにも利益のある状況をつくりたい」と期待を込める。
しかし、大型事業を研究する英オックスフォード大大学院のフライフヨルグ教授は、2都市同時決定は五輪離れの根本解決にはならないと指摘する。「IOCはアジェンダ2020があると言うが、開催費用に関しては何も効果的なことを講じていない。経済的なリスクも負っていない。IOCも開催費用に責任を持たなければ、いずれ立候補する都市はなくなる」と警鐘を鳴らした。
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