有明→テニスできず、ビッグサイト→商談できず、神宮→高校野球できず “施設難民”から悲鳴続々
東京都議選ではほとんど争点として語られることのなかった2020(平成32)年東京五輪・パラリンピックをめぐり、使用する施設の改修工事などによって、これまでの施設利用者が行き場を失い、“迷子”になる恐れが指摘されている。五輪がスポーツ振興の場を奪いかねないという皮肉なケースも。関係者の不安は募るばかりだ。
テニスコートは48面から8面に縮小
「まさか、テニスができなくなる事態もあり得るなんて…。子供は知らせを聞いて、泣いてしまった」
有明テニスの森公園(東京都江東区)で、小学4年の長男(9)がテニススクールの休日レッスンを受けている男性(60)はそうため息を付く。
五輪開催に向けた改修工事のため、同公園内の屋外コートの使用は平成29年11月~30年9月、計48面のうち8面だけに縮小。30年10月~31年7月は全面休止になり、その後の使用見通しは判然としない状況だ。
これに伴い男性の長男が通うスクールは、「土日昼間クラスの継続はかなり厳しく、その他の時間帯も規模を縮小しての運営となる予定」などと発表。“しわ寄せ”は約1300人の会員らに向かっている。
「有明は多くの子供たちが集まるテニスの聖地。近隣に広いテニスコートは少なく、プレーできない時間が長引けば、テニスから離れる子も出てくるのでは。五輪がそのきっかけになるとしたら、こんなに悲しいことはない」。男性はそう語る。
14万通を突破した請願署名
五輪でメディアセンターとして使用されるため、31年4月から20カ月にわたり利用が制限される「東京ビッグサイト」(江東区)をめぐっても、不安が広がっている。心配の種は、ビッグサイトで開かれてきた数多くの見本市や各種展示会などの扱いだ。
「展示会は営業や販売促進に人手をかけられない国内の中小企業にとって、多くの来場者と出会い、商談に持ち込める貴重な場だ」と関係者。展示会がきっかけで商談をつかみ、大きな利益につなげたケースは少なくない。東京都は約1・5キロ離れた場所に仮設展示場を設ける予定だが、使える面積は大幅に不足するとの声も出ている。
日本展示会協会は32年5月~9月の5カ月間に限っても、例年出展する4万1千社のうち3万7千社が出展できなくなると試算。ほぼ全てが中小企業で、約1兆125億円の売り上げを失うと推計している。
さらに、装飾、電気工事、印刷、警備などの展示会支援企業千社が約1134億円の売り上げを失うとも推計している。
問題解決を求める請願署名は現在、14万通を突破したという。
高校野球、高校総体の会場探しも
来賓の対応スペースなどとして使われるため、五輪開催に合わせて使用できなくなる神宮、神宮第2両球場(新宿区)。大きな影響を受けそうなのは甲子園出場権をかけて行われる東東京、西東京大会だ。
都高校野球連盟は代替球場を探す方針だが、神宮球場と同規模の球場を探すのは極めて困難。都高野連は「まだ具体的に動いているわけではないが、簡単にはいかないだろう」と困惑を隠せない。
五輪開催の余波で、国内の大会会場が決まらないケースは陸上競技にも現れている。32年の高校総体東京都大会は、都内の競技場が五輪に参加する外国チームの練習場になる可能性が高いため、いまだに会場が決まっていない。
「駒沢陸上競技場を押さえられるのではないかとみているが、先は見えない。新しい国立競技場なら一番良いが…」
関係者には焦りの色がにじみ始めている。
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