ドローンで「新・火の見やぐら」 前橋市消防局が日本初の実験 専用通信網で効果的な指示

 
有線ドローン「PARC」(前橋市消防局提供)

 ■2年後 実用化目指す

 九州豪雨の深刻な被害が明らかになる中、住宅密集地火災や大規模災害時の消火や救助活動に必要な“トリの目”としてドローンを活用し、現場映像を中継する全国初の実験に群馬県の前橋市消防局が着手した。災害時でもパンクしない専用通信網を使い、平成31年度以降の実用化を目指す。「迅速・正確、豊富な情報が活動の源というのは消防の定説」(市消防局)。災害の夏を控え思い描くのは、最新技術を駆使した日本古来の消防システム「火の見やぐら」だ。

 「新・火の見やぐら」として想定するのは、通信機能を担う指揮車にドローンシステムを搭載して空撮、受け取った受信映像から指令本部が現場の状況を把握して効果的な指示を下すイメージ。

 可能にしたのは、市消防局が国内で唯一所有する高速大量データ伝送が可能な「FWA(加入者線無線アクセスシステム)」対応の通信指揮車で、災害時の起点となる。

 FWAは事業者回線を使用しない専用通信網で、大災害時でもパンクしない。すでに実際に使われ、隊員がヘルメットなどに装着するウェアラブルカメラで現場映像を送る際に活用している。アンテナは市消防局や分署などにカバー範囲の広い7台を設置。ほかに子機11台も配備されている。

 ドローンは米国の「サイファイ・ワークス社」が開発した「PARC」。有線で指揮車につながれた有線ドローンのため、連続12日間(300時間)の滞空が可能で、風にも強い。垂直方向に最大122メートル移動可能。ケーブルは電圧1000ボルトで加工された強靱(きょうじん)な繊維「ケブラー」を使用。破断に強く消防隊員の手袋などにも使用されている。

 実際に運用された場合、どんな映像が飛び込んでくるのか。実験を主導するハイテク商社「理経」(東京都新宿区)の山内理史執行役員は「ただ画像を送るだけでなく、指令本部などの地図データと連携した画面上でドローンを探し、クリックすると映像が流れるイメージ」と解説する。

 ドローンには熱感度センサーや夜間使用可能なサーマルカメラを搭載する。市消防局の清水岳局長は、山林火災などでは地上から見通しがきかないとした上で「俯瞰(ふかん)映像は非常に有効。道の選定など地上では難しい判断が、はっきりする。また、センサーで燃えている場所が分かれば部隊を投入できる」と強調する。

 民家火災はもちろん、水難救助などでも活躍が期待できる。ヘリコプターも“トリの目”だが、「ヘリだと下に風を吹き付ける『ダウンウォッシュ』で悪影響がでることもある。その点、ドローンは使い勝手がいい」と話す。

 市消防局は平成16年の新潟県中越地震での活動を踏まえ衛星中継車を導入したが、23年の東日本大震災で連絡がスムーズにいかず、FWAを構築した。いち早く東北の被災地に駆けつけ最後まで活動した群馬緊急消防援助隊。災害の少ない土地柄だからこそ、「全国から期待されることは多いはず」(清水局長)。