日本の成長に地方の発展不可欠 地域間競争、集積で振興進めよ

視点
出口治明氏

 □ライフネット生命保険会長・出口治明

 歴史を振り返ると、ローマ帝国など世界の大帝国は全て、都に一極集中するのではなく、各都市、各地域が発展することで繁栄した。少子高齢化やグローバル化による環境変化の中で、構造改革が進まず、経済の低迷が目立つ日本の成長力を再び高めるためには、地方の発展が不可欠だ。だが、日本政府が進める地方創生策は、原理原則、ビジョンが不明確で、依然として地方関連予算のばらまきの色彩が濃い。

 効果的な地方振興を推進するには(1)各地域が自助努力で競争して発展する(2)地域の核となる地方都市の集積度を向上させる(3)中間層を増やす-の3条件が必要と考える。

 横並び意識が強い日本では、地方振興というと、どの地方も、同じようなショッピングセンターやコンサートホールなどを整備する傾向がある。個性を発揮して、他の地方とは違う、独自の試みで競い合えるように国は後押しすべきだ。地方の高齢者に質の高い介護や医療、福祉サービスを低コストで提供し続けるには、分散した地方都市の機能を集中させ、コンパクトシティーを目指さねばならない。中間層の再生は、経済成長の原動力となるので、この3条件は地方創生の前提になる。

 日本の各地域は、長い歴史や伝統、豊かな自然や文化などの「資産」に恵まれている。しかし、各地域には個性があり、強みもあれば、弱みもある。そこで、具体的な振興策を立てる前に、市町村など自治体関係者には、地元の武器になる、手持ちの「資産」カードを見極めてもらいたい。

 どの手持ちカードを町おこしに使うかは、外部の人の視点や意見を取り入れることが重要だ。インターネットなどの外部サービスを上手に利用すれば、低予算で大都市住民や外国人から振興策のアイデアを募集できる。

 もしも、優れた提案に数百万円の賞金を贈るコンペを開けば、世界中からユニークなアイデアが集まるだろう。例えば、地元に古い城跡があるとしよう。法令上の規制を乗り越え、城を再建して天守閣で宿泊できれば、外国人観光客はきっと喜び、人気の名所になる。石垣をスポーツクライミングで登れるようにすれば、一層の集客につながるだろう。手持ちの「資産」カードを吟味すれば、海外の日本食ブームで今後輸出が伸びそうな農業・水産業や、技の蓄積がある伝統産業、アイデア勝負のサービス産業など、各地方の個性を生かした有望な振興分野が見つかるはずだ。

 2番目の条件である地方都市の集積度を高める方策の一つは、自治体が中心部の公営住宅を高齢者中心のシェアハウスに改造することだ。改造後は個室と共有の居間兼食堂兼台所(LDK)で構成する。高齢者の家賃は原則無料などと優遇すれば、入居希望者が集まるだろう。高齢の入居者が農業などの仕事を続けている場合は毎日通勤してもらえばいい。

 自治体は高齢者を集めることで、従来よりも少数の要員で介護や医療、福祉サービスを提供でき、行政のコスト削減に役立つ。入居した高齢者も共同生活でお互いに支え合い、世話をし合うことで元気を回復し、一石二鳥の効果が期待できる。米国では地方大学に高齢者用住宅を併設するケースが増えているという。ある大学の併設住宅は、ニューヨーク中心部の高級住宅よりも価格が高い。引退後に学費を払ってでも、大学に通って学び直したい高齢者が増加しているからだ。

 日本でも敷地に余裕がある地方大学が全国から高齢者を集めてはどうか。病気になれば、大学病院に入院でき、体が不自由になれば、大学の近くに整備した老人ホームに入所できるようにすれば、移住する高齢者の安心感も高まる。高齢者は若い学生と一緒に学べば、さらに元気になり、健康寿命も延びる。地方大学は活性化し、地域振興にも寄与するはずだ。

 3番目の条件である中間層の拡大は国の役割で、税制と社会保障の一体改革を成し遂げる必要がある。ただ、社会に富をもたらす経済成長は、富の分配よりも重要だ。国は地方の創意工夫を引き出し、経済成長を促すことが求められる。