「ヒュンダイには乗らないで」就任式でドイツ高級車に乗った文在寅大統領、韓国民の反応は…
韓国の前大統領、朴槿恵(パク・クネ)被告(収賄罪などで起訴)の罷免に伴う5月9日の大統領選で当選した左派系政党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)新大統領について、就任前後にその言動以外にも韓国国内で話題になったことがある。その注目の話題とは、新大統領が乗る専用車がどこの国のどのメーカーになるのか、ということだった。
韓国では、就任式の前日頃から、「文氏が乗る車は何か?」との報道が出ており、国民的な関心事になっていたそうだ。韓国車なのか、はたまた輸入車なのかと注目が集まる中、文氏が乗っていたのは、なんとドイツの高級車だった。
韓国の経済紙「ヘラルド経済」などによると、大統領就任式を控えた10日午前、文氏がソウル市内の自宅から国立墓地「ソウル顕忠院」に向かう際、乗っていたのはメルセデス・ベンツの最上級モデル「マイバッハS600」だったという。
メルセデス・ベンツ日本の公式ホームページによると、マイバッハにはS550とS600の2種類があり、いずれも日本国内での販売価格は2000万円以上。文氏が乗っていたとされるS600の車両本体価格は2626万円だ。中古のマンションなら1部屋買えてしまいそうな価格で、とても庶民には手が出せない自動車なのである。
韓国の「中央日報電子版」などによると、2009年に現代自動車(ヒュンダイ)が最上級車「エクウス」に独自の技術で防弾装備を施した「儀典車両」を寄贈するまで、韓国では大統領が公務のために乗る専用車は輸入車だったという。文氏も10日の国会での就任式の後、大統領府に向かう際にはこのエクウスに乗って、沿道の市民らに手を振っていた。大統領を罷免された朴氏が乗っていたのも、このエクウスだったようだ。
ただ、ヒュンダイが寄贈するまで歴代大統領が乗っていたのは、ベンツやBMW、キャデラックといった欧米からの輸入車。こうしたことから、今回の文氏の大統領就任に当たっても、専用車に韓国国民の関心が集まったのだろう。
どうやら文氏の場合は、当選が正式に決定した10日に大統領就任式にも臨むという前例のないタイトなスケジュールでのスタートとなったことから、用意されたメルセデス・ベンツに乗ったようだ。文氏は韓国の雙龍自動車(サンヨン)の中型スポーツ用多目的車(SUV)「レクストン」に乗っているというから、今後、大統領の乗る専用車が韓国車に変わる可能性もあるかもしれない。
文氏がメルセデス・ベンツに乗っていたことを韓国国民はどのように受け止めたのか。賛否は分かれたようだ。「なぜ、輸入車、ドイツ車なのか?」と韓国車に乗っていなかったことに不快感を示す声がある一方で、米国などでヒュンダイのエンジンに欠陥が見つかった過去があることから「ヒュンダイの車には乗らないで」と韓国メーカーの車に乗らないよう求める声もあったという。文氏が、苦労して弁護士になり、弱者支援に尽力して「庶民派」を売りにしていたことから、乗っていたのが高級輸入車だったことに反発もあったようだ。
各国の大統領や首相の専用車としては、米国の大統領専用車が有名だ。現行の大統領専用車は「キャデラック・プレジデンシャル・リムジン」で、装甲板や防弾ガラスなどの防御装備を備え、「ビースト(野獣)」の愛称で知られる。大統領が外遊する際には、訪問先の国に運んで、使用する。オバマ前大統領が昨年5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)出席のため、来日した際にも持ち込まれて話題になった。
安倍晋三首相が普段、首相官邸から国会などへの移動に利用するのは「レクサスLS600hL」。昨年9月にラオスの首都ビエンチャンで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳との会議に出席した際には、現地に持参している。米国、日本はともに国産ブランドを使用している。
ところで、韓国車といえば日本車と並んで米国では人気を博するものの、世界での販売台数では日米欧の後塵(こうじん)を拝する。日本でも知名度は今ひとつで、伸びていた中国での販売も景気減速などで厳しいとか。そう考えると、大統領就任という世界中のメディアが注目する晴れの舞台に文氏が韓国車に乗っていれば、アピールする絶好の機会だったのに、と韓国国内での盛り上がりをよそにふとそう思ってしまった。(経済本部 小島優)
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