“炎上企業”恐れ身構え 15日に恒例の外資たたき特番

上海摩天楼
中国国営中央テレビ「財経チャンネル」が、世界消費者権利デーに合わせて放送する特別番組のホームページ

 中国市場に進出している日本企業が“外資たたき特番”におびえる季節がやってきた。中国国営中央テレビ(CCTV)の財経チャンネルが毎年3月15日の「世界消費者権利デー」に合わせて同日午後8時(日本時間同9時)から放送する「315晩会」という名の特番だ。

 中国の消費者に損害を与えたとして、CCTVスタッフによる長期間の覆面取材で“ブラック企業”をあぶり出す番組。過去には日産自動車やニコンなど日本企業のほか、フォルクスワーゲンやアップル、マクドナルドなど欧米系の名だたる企業も相次いで批判にさらされた。

 日本企業の関係者の間ではかねて、「中国当局がテレビ番組という形を借りた“外資企業たたき”を繰り広げているのではないか」との見方がある。日中関係が悪化した際に、相次ぎ日本企業がたたかれたためだ。

 1億人以上が視聴し、ネット配信もされる特番で、2時間の放送で数社が取り上げられるのが通例だ。放送中から中国のネット上で消費者の非難コメントが殺到し、企業のサイトなどが炎上。現地法人のオフィスには深夜にもかかわらず、中国メディアの記者がまるで鬼の首でも取ったかのような形相で続々と訪れる。翌朝には地元の工商監督当局者がいきなり調査に入って、管理職らを締め上げる。

 問答無用で問題製品やサービス回収や新品との交換、賠償などの対応を迫られ、さらに経営トップの謝罪も求められる。昨年はなぜか外資系企業が1社も取り上げられず、中国国内のネット通販関連企業を中心に批判が渦巻いたが、だからといって今年も外資企業が批判されないという保証はどこにもない。

 中国当局は米軍の最新鋭迎撃システムである「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備計画に反発し、矛先を韓国企業にも向けている。こうした中韓関係の悪化で、今年はサムスン電子やロッテなどが身構えているとの情報がある。

 しかしながら放送が始まるまで、どの企業が“血祭り”に上げられるかは全く不明なのが実情だ。

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 ■「消費者権益」周知に中国当局が啓発

 中国国営中央テレビ(CCTV)の特別番組で繰り広げられる批判が、日本や他国でのビジネスの経験から、企業にとっては的外れだったり、勘違いや誤解であると感じられたりすることがある。

 ◆企業の反論許さず

 自動車メーカーへの批判が相次いだ2015年の特番では、「走行中に突然、車が動かなくなった」「ギアをバックに入れても動かない」など、消費者の声だけを取材して企業側の反論を一切許さない。使用方法や保守など消費者の責任範囲のトラブルもおかまいなしで追及する。

 仮に自社が中国で販売している商品や提供しているサービスが、理不尽な理由で覆面取材されて特番に取り上げられて非難の集中砲火を浴びたらどうするか。「一方的な批判など許されない。反証を用意してCCTVに強く抗議したい」と考える経営者も少なくないだろうが、それをたしなめる人物がいる。

 中国での企業情報管理に詳しいPR会社プラップチャイナ上海の茅島秀夫総経理だ。「番組にクレームすることは政府にクレームすること。何の得にもならない」と話す。特番は“一罰百戒”の狙いがありそうだ。

 茅島氏によれば、「中国人に広く消費者権益があることを気づかせる中国当局による啓発番組」だからだ。特番で取り上げられてしまった以上、わずかでも反論できない点があり、あれこれ正当化しようと工商監督当局と議論を戦わせれば、最悪の場合、行政処分もありうる。

 ではどうすべきか。茅島氏はこう考えている。まず15日当日は、中国の現地法人トップや担当者がオフィスに残って番組を視聴し、万一、自社が取り上げられた場合は同日のうちに「当社は『315晩会』で報道されたことを重視し、当局に全面協力して誠実に対応する」などの声明をネット上で発表する。

 続々と駆けつける中国人記者の取材に誠意をもって対応する一方、オフィスや工場などの警備を強化。弁護士や取引先などに緊急連絡も行う。消費者からのクレームに備えたコールセンターやショールームの対応を急ぎ、翌朝の監督当局者の来訪に備えるという手順が必要だ。当然、事前準備が欠かせない。

 ◆事前にリスク低減

 中国法人だけでなく、日本本社の経営トップがこうした中国市場でのリスク管理を認識していないと、いきなり15日の特番で批判にさらされ、会社全体がパニックに陥る恐れもある。

 その前に、批判されるリスクを低減しておくのが鍵だ。

 チェックポイントとして茅島氏は、(1)消費者から自社へのクレームを放置しているケースはないか(2)抜き取り検査で不合格があったにもかかわらず放置したケースはないか(3)欧米市場などで問題を起こしたものと同じ商品を中国で販売していないか(4)中国メディアからの取材要請を避けたり拒否したりしたことはないか-を挙げた。

 最近では「315晩会」以外にも各地で地方局が地元の工商監督当局などと組み、同様の消費者保護番組を3月15日に限らず相次ぎ放送し始めている。

 茅島氏は「中国ではもはや毎日が『315』だ」と警告する。「世界の工場」から「世界の市場」に変貌し、消費者のパワーが強大になった中国においては、進出企業の側も危機意識を変えていかねばならない。(上海 河崎真澄)