サムスントップの逮捕状棄却 「世論迎合捜査」宿命づけられた韓国特検のつまずき…「正義は死んだ」ネットにあふれる非難

激震・朴政権

 韓国の朴槿恵大統領の疑惑を捜査する「特別検察官」(特検)は、最大財閥サムスングループの経営トップの逮捕という山場でつまずいた。大統領の「犯罪」の立証という世論の付託を受けて生まれた特検が岐路に立たされている。

 李在鎔サムスン電子副会長の逮捕状請求が棄却されたことを受け、特検幹部らは19日夜明け前から今後の方針を協議した。「揺らぐことなく、捜査を進める」と表明したが、捜査の仕切り直しは避けられない。

 政権と財閥の癒着疑惑は国民が長年、不満を募らせてきた問題だ。中でも、李氏が父からの経営権の継承を進めるためのグループ内の合併で、朴氏が便宜を図ったとされる問題は、最大の疑惑とみられ、特検側も「見返り関係が最も明白だ」と自信を示してきた。しかし、ソウル中央地裁は「見返り関係」という贈賄容疑の根幹で立証が不十分だとの判断を突き付けた。

 特検は逮捕状の棄却にかかわらず、崔順実被告が実質支配した財団に出資した他の財閥も捜査する方針を維持。韓国ロッテグループやSKグループが次の対象になるとみられている。

 ロッテは創業家間の経営権争いや裏金疑惑、SKは横領罪で服役していた会長の特赦を求めるというそれぞれ後ろ暗い“お家事情”を抱え、出資に応じた疑いがある。だが、特検に先立つ検察の捜査でも企業側への贈賄罪の適用を断念した経緯があり、財閥トップの立件へのハードルは高い。

 特検は、大統領の疑惑解明という世論の高まりを受けて設置された。それだけに、世論の関心が捜査対象にも反映されている。

 朴政権が批判的とみなした韓流スターら9400人を掲載した「ブラックリスト」の作成疑惑もそうだ。特検は作成を主導したとして18日に金淇春(キム・ギチュン)元大統領秘書室長と趙允旋(チョ・ユンソン)文化体育観光相の逮捕状を請求した。

 崔被告の娘、鄭(チョン)ユラ氏(20)の名門、梨花(イファ)女子大への裏口入学問題も、若者らの怒りを買い、朴氏の退陣を求めるデモに火をつけた。特検は教授や前学長を逮捕するなど捜査を進めているが、肝心の鄭氏はデンマーク当局に拘束されたまま、帰国していない。

 国民最大の関心事といえるのが、不正診療疑惑を含め、旅客船セウォル号事故当日、朴氏の動静が不明とされた「空白の7時間」問題だ。ただ、朴氏への聴取が実現しない中、捜査が最も遅れている問題とされる。

 財閥トップへの逮捕状の棄却を受け、ネット上には「司法は最も腐敗している」「正義は死んだ」と地裁の決定を一方的に非難する書き込みがあふれた。特検がよって立つ世論という存在の危うさも浮かぶ。(ソウル 桜井紀雄)