経団連・榊原定征会長 踊り場からワンステップ上がる年

新春に語る

 2017年がスタートした。経済3団体トップに日本経済の成長に向けての展望などを聞いた。

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 --昨年を振り返ると

 「国際的には極めて大きな変化が起きて、歴史に残る変曲点となるような事柄が続いた。英国の欧州連合(EU)離脱、米大統領選でトランプ氏の勝利、イタリアの国民投票、韓国の大統領の弾劾裁判など、予想し得ないようなことばかりだった。こういった動きの底流にあるのはポピュリズム、ナショナリズムであり、保護主義的な動きだ」

 --日本経済は

 「一方、日本は7月の参院選で自民・公明の与党が勝利し、安倍晋三政権の安定基盤が強化された。世界的にみても極めて異例な強い基盤を持つ政権だ。アベノミクスは4年を経過したが、日本経済は全体的には緩やかで着実な回復を遂げている。ただ、個人消費、設備投資にいまひとつ力強さがなかったことで、停滞し、踊り場という格好だ。それでも年後半は回復の兆しが出始めた。その上、トランプ次期大統領の政策を期待して、株高円安の環境となっている。また、官民一体で、『ソサエティー5.0』推進でも動き出した。日本の社会や経済をスマート社会に変革していこうというプロジェクトで、ようやく動きが始まった」

 --今年はどんな年になると予測しているのか

 「経済は、踊り場から回復の兆しが見えているが、今年は、昨年の状況を踏み台にして、ワンステップ上がることになると期待している。トランプ次期大統領については、法人税減税やインフラ投資、規制緩和といった産業促進策を打ち出していて、それを進めていってもらうことに期待するのと同時に、期待外れとなった反動もリスクとして考えている」

 「だが、米国経済の回復は日本経済にも好影響を与えるのは間違いない。日本経済自体を好循環させることも重要で、これには、染みついたデフレマインドを払拭するためにも、経営者が自信を持って積極的な投資、積極的な研究開発をしていくことが重要だ。同時に春闘では近く経団連がまとめる経営側の指針に沿って前向きに対応してもらいたい」

 --経済界の最大の関心は、昨年後半からの円安株高の経済環境がいつまで続くかだ

 「今の円安株高を期待しているが、いつまで続くのかはわからない。金融機関、シンクタンクが今年末の対ドルの為替市場の予想を出しているが、最も円高で99円、円安で120円。予測がこれほどぶれたことはないというほど、先行きは見通しにくい環境だ。ただ、為替は安定が大事だ。同時に、企業はその時々の為替や株価の動向に関係なく、企業体質の強化や積極的な投資によって、成長戦略を実施することが重要だ」

 --経済界から政府に要望することは

 「安倍政権には官民プロジェクト10に代表されるような成長戦略や、構造改革、規制改革を大胆に進めてもらいたい。早く改革が進むものもあるが、規制改革などでは対応が遅れているものも多い。社会保障制度も改革テーマを44項目掲げ、今年は11項目を議論したが、予算案などに盛り込めたのは8項目で、踏み込み不足もあり、改革のペースを上げてほしい。また、経済の好循環には地方経済の活性化が必要だ。経団連としても、地域の経済団体との連携を強化していく」

 --今年の経済外交の基本方針は

 「昨年は各国の10人の元首と面会した。それ以上に各国の経済団体との交流も活発だった。各国ともに日本との経済関係の拡大を望んでいるからだ。今年も引き続き経済外交を進めていく。まず、米国だ。新政権ができてどうなるか、特に通商政策に懸念を持っているからだ。トランプ氏が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)見直しを選挙期間中に発言しているなかで、日米にとっての経済的な意義を説明したい。私自身が行くことを含めて、米国ミッションを考えたい。また、日露の経済連携も進展状況によっては対応が必要だ。日露の経済連携を進めていくには、ロシアのビジネス環境の整備を継続させることが欠かせず、経団連としての働きかけは必要になるとみている」

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【プロフィル】榊原定征

 さかきばら・さだゆき 名大院修了。1967年東洋レーヨン(現東レ)。専務、副社長を経て2002年に社長就任。10年6月会長、15年6月から相談役最高顧問。経団連は14年6月に会長就任。73歳。愛知県出身。