固定化する格差社会、6割が悲観…「韓国の社会動向2016」が描き出すヘル朝鮮

 
固定化する格差社会を報じる韓国のニュース番組(youtubeより)

 5人に1人が自身を「社会の最下層」と考え、国民の6割が「努力しても上の階層には上がれない」と考えている…。「格差社会」のゆがみを如実に示すこの調査結果は、日本のものではない。韓国統計庁が公表した報告書「韓国の社会動向2016」に記された、韓国社会の実情だ。さらに、急性感染症の発生率は1960年代のレベルに急増、スマートフォン中毒の予備軍は4年間で倍増するなど、政府刊行物とは思えないほど悲観的なデータがめじろ押しである。こんな“ディストピア(理想郷と正反対の社会)”が韓国の実相だとすれば、かの国の若者が「ヘル朝鮮」と自嘲するのも無理はない。

 「土匙」と「金匙」…超格差社会浮き彫り

 「小川から龍が出る」という韓国のことわざがある。日本でいう「トンビが鷹を生む」に近い意味の言葉だ。「韓国の社会動向2016」の内容を報じた韓国の聯合ニュースや朝鮮日報は、そろって「国民10人のうち6人が、この言葉は不可能になった」と報じた。

 報告書によると、努力を通じて、一生の間に個人の地位が高まる可能性について、肯定的な回答は約2割にとどまる一方、「比較的低い」「非常に低い」とする否定的な回答は62.2%にのぼったという。通貨危機前の1994年には肯定的な回答が6割を超え、否定的な回答はわずか5%強だったが、20年あまりの間に逆転した形だ。

 さらに、自分が「経済社会的に最下層に属する」と考えている人は、20年間で8ポイント増加し、20%になった。実に5人に1人が“底辺”だと認識している状態だ。中間層だとの認識は53%にとどまる。自分の子供が上の階層になれるか、という質問についても半数が否定的だ。特に子育て世代の30代は6割が悲観的な見方を示した。こうした一連の回答は、所得や家庭環境による二極化が進み、格差の固定化が進んだ韓国社会のゆがみを浮き彫りにしている。

 こうした階層化社会を自嘲するように、韓国では「金匙」「銀匙」「土匙」という言葉が若者の間ではやった。「銀の匙をくわえて生まれてきた」という慣用句にちなみ、親の貧富の差をスプーンの材質になぞらえた言葉だ。背景にあるのは、社会的地位の獲得や経済的な成功は、本人の努力に関係なく親の経済力で決まる、という格差固定化への自嘲にも似た「あきらめ」だ。

 医療や文化、教育にも不安の影

 こうした韓国社会の現状にひそむ“ひずみ”を示すデータは、報告書のあちこちに散見される。

 例えば急性感染症の発生率は1960年代以降減少したが、1998年以降、はしかやマラリアなどが再び発生し、徐々に増加。2009年の新型インフルエンザで大きく跳ね上がり、現在も1960年代のレベルにとどまっている。2015年に猛威をふるった中東呼吸器症候群(MARS)のように、韓国の社会的な防疫体制は整っているとは言い難い。

 一方でスマートフォンの普及に伴い、一日の多くをスマホの使用に費やし、日常生活に支障をきたす「スマホ依存症」予備軍の割合は、2011年の8.4%から2015年は16.2%と倍増した。スマホ利用の活発な若年層の割合が高いが、所得階層別で見た場合、青少年や社会人では月収200万ウォン(約20万円)未満の割合が高くなったという。

 また、過去1年間に、いじめや校内暴力を受けた児童・生徒の比率は、小学生で24.3%▽中学生18.0%▽高校生16.3%-にのぼった。小、中学生の比率は13年に比べ改善しているが、高校生は増加に転じている。

 このほか過去20年間で61歳以上の高齢者人口は2.2倍に増えた。だが、人口10万人あたりの61歳以上の刑法犯罪者数は、20年前の約5.9倍にあたる151.5人に急増した。61歳以上の刑法犯罪被害者も20年間で約8.8倍の約9万人に増加し、高齢化に伴う社会不安は拡大しつつある。

 ネット民もポツリ…「これが韓国の現実だ」

 こうしたニュースが報じられると、韓国のネットニュースの掲示板には、悲嘆や憤慨する市民の声が相次いだ。

 「韓国は上位の既得権層が問題だ。政界も労働界も皆同じ。既得権者は絶対に子々孫々までぜいたくする」「財閥政策を作った政府が元凶だ」などと、政府を批判するコメントに混じって、「こんな記事はうんざりだ。対策はないのに…」「これが韓国の現実だ」と、なげやりなコメントも少なくない。

 また、弾劾訴追案の可決により朴槿恵(パク・クネ)大統領が職務停止に追い込まれて以降は、過激な発言で「韓国のトランプ」として急速に人気を高める城南市の李在明(イ・ジェミョン)市長の支持者らとおぼしき「階層間の壁を壊す人、李在明オススメ!」との書き込みも目立った。

 こうした社会のひずみや不公平感に対する一般市民の怒りの“はけ口”のひとつが、朴大統領の退陣を求める「ろうそく集会」だった。しかし、報告書にあげられた問題は、社会構造や国民意識に根ざしており、朴氏から次期大統領に政権交代しても早晩、解決するとは言い切れない。その時のはけ口がどこへ向かうのか…。願わくば、その社会を構成する人々すべての自省につながってほしいものだ。(内田博文)